(NPO)氷河・雪氷圏環境研究舎

アクセスカウンタ

zoom RSS “アイスランドの旅”(2006.6);『シンポ:氷と火山』『変動する氷河』『地球温暖化、NPO』

<<   作成日時 : 2007/04/01 18:00   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 13 / トラックバック 0 / コメント 0

No.537 「アイスランドの旅 (前)」 (2006.7.1投稿) 

              成瀬廉二、2006/07/01(Sat)

 6月18日から27日までアイスランドへ行ってきました。火山と氷河に関する国際学会(*)出席と会議後の研修旅行に参加するためです。
                                
画像
          
    [Photo]ゲイシールの間歇泉(2006.6.24)

 私は多くの日本人同様、アイスランドに関する知識は乏しいものでした。北欧の西北、大西洋に浮かぶ小さな島国で、活発な火山がたくさんあり、ヴァイキングを祖先とする人々が暮らしている、という程度のものでした。

 ただし私はそれに加え、アイスランドの氷河およびこの国特有のヨコロウプ(**)という氷河洪水に関する論文を読んだり国際会議で発表を聞いたことがあり、強く興味を引かれぜひ一度は行きたいと思っていた国でした。

 アイスランドの面積は日本の約1/4、その内の10%強が氷河に覆われています。それらの氷河の大半は、いまも活発な火山の上にあり、それ故に氷河の振る舞いも独特です。人口は約29万人で、鳥取県の半分しかいません。たしかに、きれいに整備された近代都市レイキャビックの街中でも、旅行者を除くと地元の人が歩いているのを見かけるのは稀なような気がします。

 国の経済は、漁業と水産加工業が主で、近年は観光産業が著しく伸びているそうです。国民の平均寿命は日本と並んで世界のトップクラスです。日常生活に関わる物価は、ヨーロッパで一番高いかそのレベルだ、とヨーロッパから来た人が言っていました。私が短期間に見ただけの印象ですが、人々の生活水準は全般に豊かで高く、国の経済を支える特段の輸出工業がなくても、これが維持されていることがとても不思議に感じました。

(*) International Symposium on Earth and Planetary Ice-Volcano Interactions
(**) jokulhlaup

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
No.546 「アイスランドの旅 (中)」

      成瀬廉二、2006/07/06(Thu)

 国際会議は首都レイキャビックにあるアイスランド大学にて4日間にわたって開催されました。シンポジウムのテーマは「氷河と火山の相互作用」であり、まさにアイスランドを特徴づける最もふさわしい標語と言えます。

 アイスランドは北アメリカプレートとユーラシアプレートの境い目にあり、両プレートは年に2cmの速さでお互いに離れつつあります。そのため地震の多発地域であると同時に、地下のマグマが上昇しやすく火山の活動が昔から非常に活発です。

 アイスランドには現在も活発な火山が約20個あり、その約半分は氷河におおわれています。人々が住み着いた9世紀以降は、平均すると5年に1回どこかの火山が噴火したとのことです。

 日本で言えば、阿寒岳とか浅間山とか桜島とかが厚い氷に被われているようなものでしょう。そうすると、アルプスやヒマラヤ等の氷河とは特性が大きく異なります。

 その1つは、地熱が高いために、氷河の底で氷がたくさん融けることです。融け水は氷河と岩盤の間に水の層として溜まり、年々その水の量が増すと深さ100mをも超える湖(氷下湖という)となることがあります。氷河がその水を保持できなくなると、氷河の一部が決壊し、大量の水が短期間に流出し、下流域に洪水を起こします。これが、ヨコロウプです。

 アイスランドの氷河のもう一つの特徴は、氷河の下で火山噴火が起こることです。小規模の噴火の場合は、氷河の底に溶岩が流れ出て、その熱で氷を溶かし、溶岩と氷の融け水が混じった泥流の洪水を起こします。

 また、氷河の下で大規模な噴火が起こると、火山灰や溶岩等が氷河を突き抜けて噴出し、氷や岩や火山噴出物を含んだ泥流がふもとに大洪水を起こします。

画像

     [Photo]アイスランド大学におけるポスター発表(2006.6.21)

 シンポジウムでは、このような火山地域の氷河の研究のみではなく、氷河に被われた火山の地震、重力、化学、地質等の研究の発表が行われました。このように、専門が著しく異なる研究者が一堂に会して研究成果を発表し、議論することは、ふつうの学会ではあまりないことです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
No.588 「アイスランドの旅 (後)」

        成瀬廉二、2006/07/13(Thu)

 シンポジウムの中日には日帰りの、終了後には2泊3日の研修旅行が企画されました。案内役は地元アイスランド大学および気象局の地質や火山学、氷河学の専門家です。

 レイキャビックからバスで30分ほども郊外に行くと、見るべき自然景観にこと欠きません。池、湖、滝、海岸、山、氷河など。この研修では、当然ながら一般の観光客はあまり立ち止まらない場所で、歩きながら詳しい解説を受けました。

 
画像

     [Photo]ミィダルスヨックル氷帽から流出する氷河の末端(2006.6.25)

 まず、火山噴火により生じた地形や溶岩の原野。若い頃北海道の山々(およそ半分は火山)をかなり隈なく歩いた私にとっては、これらは見慣れた風景です。しかしアイスランドでは、さらに火山泥流や氷河洪水による氾濫原などがあちこちで見ることが出来ました。この国特有の、このような泥流や洪水に関する基礎的、工学的研究が進んでいます。

 また、地震国アイスランドでは、耐震建築が完備され、2000年6月、マグニチュード6.6の直下型地震でもビル、家屋の倒壊はほとんどなかったそうです。

 アイスランドの国にとって重要な特筆すべきことは、地熱をエネルギーとして有効に利用していることです。この国では、全エネルギーの約40%は地熱発電によっているそうです。

 レイキャビック郊外の地熱発電所を見学しました。高温の地熱地帯にいくつかの発電所が建設されています。遠くから見ると山あいに工場の建物がポツンとあるようなものです。そこでは、地下1,000mから2,000mの掘削孔があり、1,000mでは温度は200度C以上、2,000mでは350度以上とのことです。掘削孔を通し高温高圧の蒸気をとり出し、スチームタービンで発電します。

 得られた電気は、レイキャビック等の都会へ送電されますが、環境景観を考慮して、送電線の半分近くは地下埋設となっています。

 発電にともない生じた温水と排熱で、地下からくみ上げた冷水を温め、高温の湯を都会へパイプ輸送し、住宅の暖房の大半をまかなっています。レイキャビックまでの全長23kmを、約100度の温水を重力の作用で輸送し、その間の温度低下はわずか2度C以下とのことでした。

 地熱発電は、大気中へ温室効果ガスなどの汚染物質をまったく排出せず、水力発電のように自然環境を改変させることもなく、現在実用化されている各種発電の中では、最も望ましいエネルギー供給法だと思います。

 日本のあちこちの温泉地域では、湧出温泉量の減少と泉温の低下が問題となっています。温泉の湯の元は地上に降った雨なので、過度に汲み上げたら不足するのは当然です。これに比べて、火山地帯の地下のマグマの熱は、人類の歴史程度の時間スケールで考えた場合は、ほぼ”無尽蔵”と言えるのではないでしょうか。

                      (おわり)

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 『IGSシンポジウム「氷と火山の相互作用」報告』

  
           (NPO)氷河・雪氷圏環境研究舎 成瀬 廉二

1.まえがき

 IGS (国際雪氷学会)主催の国際シンポジウム" Earth and Planetary Ice-Volcano Interactions (地球と惑星における氷と火山の相互作用)”が、2006年6月19日から23日にかけて、アイスランドの首都レイキャビックのアイスランド大学にて開催された。火山と氷河で特徴づけられるアイスランドにとって、このシンポジウムのテーマはまさにぴったりというものであった。
開催地がヨーロッパ北部の諸都市から最短でも空路3時間というやや遠隔地であったためか、出席者約80名(同伴者を除く)の内、地元アイスランドを除くと58名と、比較的小規模なシンポジウムとなった。発表された論文数は、口頭60、ポスター11(写真1)の計71件であり、その内の約半数はアイスランドの氷河と火山に関するものであった。以下、カッコ内の引用は第1著者のみを記す。

 
画像

          写真1.アイスランド大学の自然科学棟におけるポスターセッション.
 
2.アイスランドの氷河、氷下湖、ヨコロウプ

 アイスランドは、北アメリカプレートとユーラシアプレートの境界面の上にあり、両プレートは年に2cmの速さでお互いに離れつつあるため、地震の多発地域であると同時に、地下のマグマが上昇しやすく火山の活動が非常に盛んである。アイスランドには現在も活発な火山が約20個あり、その内主要な3つの火山(Hekla、Katla、Grímsvötn)だけで、アイスランドに人々が住み着いた9世紀以降に合計約100回噴火したことが記録されている(M. Roberts)。
 アイスランドの面積は日本の約1/4、その内の10%強が氷河に被われている。それらの氷河の約60%は活発な火山の上にあり、それ故に氷河の振る舞いも独特である。
 その1つは、地熱が高いために、氷河の底で氷がたくさん融けることである。高地熱地帯では、氷河の総消耗量の90%以上が底面融解によると見積もられた(H. Björnsson)。融け水は氷河と岩盤の間に水の層として溜まり、年々その水の量が増すと深さ100mをも超える湖(氷下湖 、subglacial lake)となることがある。氷河がその水を保持できなくなると、氷河の一部が決壊し、あるいは氷河底面の水路が拡大し、大量の水が短期間に流出し、下流域に洪水を起こす。これが、アイスランド発祥の氷河洪水ヨコロウプ(jökulhlaup)である。
 アイスランドの氷河のもう一つの特徴は、氷河の下で火山噴火が起こることである。小規模の噴火の場合は、氷河の底に溶岩が流れ出て、その熱で氷を溶かし、溶岩と氷の融け水が混じった火山泥流(ラハール、lahar)の洪水となる。また、氷河の下で大規模な噴火が起こると、火山灰や溶岩等が氷河を突き抜けて噴出し、氷や岩や火山噴出物を含んだ大規模な土石流や泥流がふもとに大洪水を引き起こす。

3.セッション

 本シンポジウムは以下の6つのトピックスで論文募集が行われ、実際の口頭発表もこのセッションにしたがって実施された。おそらく著者が「最も関連が深い」と指示したトピックスにしたがってプログラムが組まれたと思われ、その結果トピックス1)に偏りが生ずるとともに、同種の研究が別のセッションで発表されるなど、もう少し工夫の余地があると感じられた。

1) Effects of geothermal and volcanic systems on glaciers and ice caps (口頭発表数:24)
 「火山が氷河・氷帽におよぼす影響」であり、具体的には地熱(高い地殻熱流量)に関係する事象や、氷河底部の水の作用、氷下湖、氷河下の噴火、溶岩流、ヨコロウプなどに関する研究である。特に、アイスランド最大の氷帽ヴァトゥナヨックル(Vatnajökull)の各所における氷下湖の成長とヨコロウプ発生(場所と時により、周期は5〜10年または1〜3年)の研究が多く報告された(T. Thorsteinsson)。同氷帽の下の火山(Grímsvötn)のカルデラは水で満ちた湖で、それを被う氷帽の氷は水に浮き、厚さ100-300mの棚氷となっている。棚氷の掘削により氷コアの解析に加え、湖の水質分析が行われ、微生物の生存も確認された。また、このカルデラから氷河底面に沿って排水路が形成され、周期的にヨコロウプを発生している。
アイスランド以外では、アラスカ、ワシントン州、南米の火山、西南極の氷流等の研究報告があった。また、南極ボストークの氷下湖も、地熱により氷が融解してできた巨大な湖なので、これに関する発表も5件あった(A. Ekaykin、他)。

2) Effects of ice cover on volcanic systems (9)
 “氷と火山の相互作用”のうち1)の逆の「氷河が火山に及ぼす影響」である。筆者は、このシンポジウムへ出席するまでは、“相互作用”と銘打っても影響を受けるのは氷河であり、氷河から火山への影響は考えたことがなかった。しかし、厚さ数100mにおよぶ氷の荷重、その結果として氷河底部にかかる圧力は、氷河下の地殻やマグマの動き、噴気に少なからぬ影響を与えている(M. Gudmundsson)。このセッションの多くは、火山の側から氷河の影響を見ているので、研究が依拠するところは火山学(地震、重力、化学、地質等)であり、筆者の理解がはるか及ばぬ点も多多あった。

3) Geophysical exploration of ice-covered volcanoes (8)
4) Information from internal acid layers and tephra layers (5)
 3)はアイスレーダ、地磁気、重力法等による、氷の下の火山の探査である。4)は、氷体内の酸性物質や火山噴出物(テフラ、tephra)の層から得られる情報であり、山岳地域の氷コア研究にとっては非常に重要な鍵となるものである。しかしながら、今回のシンポジウムでは氷コアに関する発表(G. Clarke、他)が非常に少なかったことは残念であった。

5) Volcano-glacier hazards (10)
6) Extraterrestrial ice-volcano interaction (4)
 5)は火山と氷河に起因するハザードであり、コロンビアやメキシコにおけるラハール災害、アイスランドの火山性地震とヨコロウプによる危険度や被害の報告であった。6)は、本シンポジウムでは地球以外の惑星も対象としたため設けられたセッションであり、局所的に高い地殻熱流量を与えたときの火星氷床の形態に関する数値実験結果が発表された(R. Greve)。

4.エクスカーション

 シンポジウムの中日には日帰りの、終了後には2泊3日の研修旅行が実施された。案内役は地元アイスランド大学および気象局の地質や火山学、氷河学の専門家である。レイキャビックからバスで30分ほども郊外に行くと、見るべき自然景観にこと欠かない。池、湖、滝、間欠泉、海岸、鳥、山、氷河など。この研修では、当然ながら一般の観光客はあまり立ち止まらない場所で、歩きながら詳しい解説を受けた。まず、火山噴火により生じた地形や溶岩流の原野など(写真2)。

画像

   写真2.枕状溶岩(pillow lava).形状や結晶構造から溶岩が水中で急激に固化したと考えられるので、当時ここは氷河の下の湖の底で、そこで水中噴火した証拠とされている.(レイキャビック市郊外)

 次いでアイスランド南部のミィダルスヨックル氷帽およびヴァトゥナヨックル氷帽から南へ流出するいくつかの氷河を訪れるとともに(写真3)、それらの氷帽(火山)からの溶岩流、火山泥流、ヨコロウプ等の痕跡や氾濫原をあちこちで見ることができた。この国特有の、このような泥流や洪水に関する基礎的や工学的研究は大変進んでいる。

画像

   写真3.最も活動的な火山の一つであるカトゥラ(Katla volcano)を被うミィダルスヨックル氷帽(Mýrdalsjökull)から南へ流出する氷河の末端付近.

 また、レイキャビック郊外の地熱発電所を見学したが、この国の全消費電力の約40%は地熱発電によっていること、および発電にともない生じた温水と排熱を利用し、約100℃の温水を都会へパイプ輸送し、住宅の暖房の大半をまかなっていることを聞いた。レイキャビックまでの全長23kmを、重力の作用で輸送し、その間の温度低下はわずか2℃以下とのことであり、高い技術を使い自然のエネルギーを効率的に利用していることに感銘を受けた。

  [日本雪氷学会誌「雪氷」第68巻5号、2006年9月、シンポジウム報告『氷と火山の相互作用』より転載]

 
   ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

[講演]{2007年5月}

(講演)『変動する世界の氷河、および地球温暖化と海面変動』

1.多くの山岳氷河は後退(縮小)傾向

 昨今、世界各地の山岳氷河が激しく後退している実情が報告されている。一例として、南米パタゴニアのウプサラ氷河の1993年〜1999年の変動の様子を図1に示す。幅3kmの同氷河は写真の右から左へ流れ、末端は湖へ流出し、氷塊が崩れ落ち、氷山となって湖に漂う。この5年間で、ウプサラ(Upsala)氷河の末端は約2km後退した。この後退速度は、ヒマラヤやアルプスの氷河に比べて1桁大きい。その第1の原因は、氷河末端が湖(あるいは海)へ流出していること(カービングcalvingという)による。                
 パタゴニアの代表的な8個のカービング型氷河の末端変動を図2に示す。右上がりの折れ線が氷河の前進を、右下がりが後退を表している。オヒギンス(O’Higgins)氷河は1945年から40年間、ウプサラ氷河は1970年代末から2000年にかけて著しく後退したことが分かる。一方、フィヨルドへ流出しているピオ11世(Pio XI)氷河は氷河末端が前進した。このように、カービング型氷河の振る舞いは、単純に気候の反映ではなく複雑である。

画像

       図1.ウプサラ氷河の末端付近(上:1993年11月、下:1999年3月)

 アジア、ヨーロッパ、北米大陸等では後退している氷河が多いが、中には近年前進している氷河もある。とくにスカンジナビアでは前進氷河の方が後退氷河より多い。このように、「地球温暖化→氷河後退」の単純な図式では説明できない事例も少なくない。
氷河は、降雪によって養われ、融解とカービングによって消耗する。年間の総降雪量より総消耗量が多いと、氷河の体積が減少する。したがって、氷河の変動は気温のみの影響ではない。温暖化しても降雪量が増せば、氷河は拡大し得るのである。また気候が変化してから、氷河の末端が前進・後退の変化を示すまでには、ふつうの谷氷河で数十年程度の時間を要する。したがって、最近数年間、氷河が後退しているからと言って温暖化の影響と直ちに結論づけることはできない。

 我々が氷河の現地調査、あるいは航空機や人工衛星により観測可能な氷河変動は、大きく分けると、
 1)末端の前進・後退(一次元情報)、
 2)面積変化(二次元情報)、
 3)氷厚変化(面積と合わせて三次元情報)、
 4)質量収支変化(詳細な観測が必要)がある。
 水資源や水循環、海面変動の観点からは、3)または4)のデータが必要である。
氷河表面の高さを地上から測量し、異なる年の同じ季節の高度の差から、氷厚の変化が求められる。パタゴニアの数個の氷河の観測結果を図3に示す。モレノ(Moreno)氷河は氷厚が不変、ウプサラ氷河は年に11mという急速な氷厚減少を示したことが分かった。

画像

           図2.パタゴニアの氷河の末端変動      
         縦軸は氷河の末端位置(流動方向の距離).   

画像

           図3.パタゴニアの氷河の氷厚変動 
         縦軸は氷厚の年増加速度(負の値は減少)

2.地球温暖化と海水面変化

 全地球の平均気温は、過去100年間(1906-2005年)で0.74℃上昇したと見積もられている(IPCC, 2007)。一方、人びとが暮らす地域の気温の上昇量はこれより大きい。さらに、大都市ではこれが著しく、例えば東京では20世紀の100年間に年平均気温が約3℃上昇した。IPCC報告書によると、今後21世紀末までの100年間は、温暖化傾向が加速し、全地球の平均気温は1.8℃から4.0℃程度上昇すると予測されている。

 全地球の平均海水面は、各地の検潮儀による観測データの解析の結果、過去100年間で約10cm弱上昇したことが分かっている。その約半分は、温暖化にともなう海水温の上昇による海水の熱膨張、他の半分は山岳氷河と北極氷冠の融解によると見積もられている。このように、南極や北極の氷床に比べて総面積は小さいながら、山岳氷河の後退の影響は大きい。

 一方、今後100年間に予想される平均海面上昇量は約50cmと著しく、その内訳見積もりでは、約半分が海水の熱膨張、他の半分が氷河・氷帽の融解による。地球温暖化にともない、亜熱帯の陸域では乾燥傾向となり、高緯度地域では降水量が増加すると予測されている。したがって、南極の氷床は、温暖化により降雪量が増加するため、内陸部の氷は厚くなり、海水面を低下させる傾向になると考えられる。グリーンランドの氷床は、沿岸部の温暖地域は氷の融解量が増し、内陸部は降雪量が増し、差し引き海水面変動に大きな影響を与えないと予想されている。しかし、極地氷床の振る舞いについては未解明のことも多く、その予測は不確実性を多く含んでいる。

                 (NPO法人)氷河・雪氷圏環境研究舎 成瀬廉二 

   (2007年5月26日、鳥取地学会 特別講演概要、場所:鳥取県立博物館) 

     ~~~~~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(同人誌すまたぽぽひ2008) 『地球温暖化とNPO法人』

1.鳥取を拠点として 

 2年前(1996年)の3月31日夜遅く、苫小牧港をフェリーで発った。幼少期の短い期間しか暮らしたことがないが、戸籍上はれっきとした私の故郷である鳥取へ移り住み、4月の初めから新しいNPOの活動を始めるためであった。

 そのNPOは、正式名を「特定非営利活動法人 氷河・雪氷圏環境研究舎」と言う。大変長く、一般の人には読みにくい屋号だが、このネーミングにあたっては、私なりの理由とこだわりがあり、熟慮の結果である。まず、40余年にわたり私が行ってきた研究の中心を指す「氷河」は不可欠、しかし氷河のみでは特殊な対象と思われるので「雪氷圏」と広くし、さらにこれだけでは世間に馴染みが薄いので多方面で頻繁に使われるキーワード「環境」を加えた。末尾の組織体を示す語には、会、会議、所、センター、フォーラム、ネットワーク等が考えられたが、ありふれていないということで「研究舎」とした。
なお、本年3月31日現在、我が国のNPO法人総数は34,371件に達している。その内、法人の名に「雪氷」が含まれているのは4団体あるが、「氷河」または「雪氷圏」はここ以外にはない。 

2.NPO法人とは

 NPOとはNonprofit Organizationの略であり、営利を目的としない組織(団体)のことである。その内、NPO法(1998年施行)にもとづく法人は特定非営利活動法人と呼ばれる。ここで言う非営利とは、事業により収益を得ても、活動経費や団体管理費に支出し、それでもお金が余ったら会員(構成員)に配当しないで次の活動に使う、ということでも良い。そのため、数あるNPO法人の中には、小さな会社に匹敵するような財政規模で事業(福祉やスポーツクラブ等)を展開している団体もある。別に違法ではなく、NPOの方が小回りが利く等の利点もあるのだろう。

 これと似た名前に、NGO(Non-Governmental Organization:非政府組織)がある。NGOは、国連や紛争地域、災害現場等で、特定な国とは関係のない立場で活動する団体に対して使われている。あらゆるNGOは非営利目的なのでNPOであり、すべてのNPOは非政府なのでNGOであると言える。つまり、両者のどちらかがどちらを含む、という関係ではなく、営利か否か、官か民か、という視点の分類である。

 我々の周辺には非常に多くの任意団体、ボランティア組織、親睦会等がある。これらの内、非営利かつ公益(不特定多数の益となる)活動を行っている民間の団体は、広義のNPOである。そのNPOのある団体が、NPO法で定めた17分野の特定な活動を行うことを主目的として県または内閣府に設立申請すると、とくに問題がなければNPO法人として認証される。現在設立されている全NPO法人が看板に掲げた17分野の内、多い順番とそのパーセント(複数回答)は以下の通りである。1)保健・医療・福祉(58%)、2)社会教育(46%)、3)他団体への助言・支援等(45%)、4)まちづくり推進(40%)、5)子どもの健全育成(40%)、6)学術・文化・芸術・スポーツの振興(32%)、7)環境保全(28%)が続く(内閣府のHPより)。

3.昨今の地球環境の諸問題

 当NPOは、『氷河および雪氷圏環境に関する教育・普及・研究』を看板に掲げ、インターネットによる情報伝達、解説、意見交換を平常の活動とし、時に各地で講演会、セミナー、談話等による普及、啓発活動を、それほど一生懸命にではなく、気の進むまま程ほどに行っている。

 昨今、地球温暖化の問題が、新聞、テレビ、雑誌、広告、書物に氾濫し、やや情報過多、感情論に走りがちである。専門分野から言うと、この問題にかなり関係が深い私としては、いたずらに危機感を煽るのではなく、事実を直視し、科学的に信頼できる予測を受け入れ、冷静に、長期的展望で地球環境問題に対処すべきである、というスタンスで機会があれば発言している。

 各種報道には、明らかな誤り、誤解を招きやすい記述、誤りとは言えないが事実を的確に捉えていない、等々がときどき認められる。それらの内、以下に2、3の例を挙げよう。

(1)『地球温暖化で南極の氷が溶けて世界の海水面が上昇する』
これは誤りである。100年後の全地球平均気温は、2〜4度程度上昇すると予測されている。南極の大部分はまだ十分寒いので、氷は融けない。ただし昭和基地があるような沿岸の暖かい地域では、夏にはかなり融けるようになる。しかし、南極氷床全体としては海水面を上昇させることはない。

(2)『地球温暖化で北極の氷が溶けて世界の海水面が上昇する』
北極と言うとき、北極海を指している(氷の上に乗ったシロクマの写真付)なら誤り。海の氷は浮いているので融けても水面の位置は変わらない(アルキメデスの原理)。
 北極を周辺の陸地を含む地域(北極圏)とすると、正しい。そこには数多くの氷河や氷帽が存在し、それらの融解・消滅が海水面上昇に大きく寄与する。

(3)『(氷河の末端の氷壁がフィヨルドか湖に崩れ落ちる映像とともに)地球温暖化が進んでいる.....!』
氷河末端が崩壊する現象は温暖化とは関係がない。昔も今も氷河の崩壊現象に大きな差はない。「温暖化」は眼に見えないので、イメージ映像としては格好な題材なのであろうが....。

画像


4.結びにかえて=東京42.195キロ走=

 これは本論とはまったく関係がないので、「まとめ」でも結語でもなく、付録か、付け足しか、蛇足である。

 昨夏、走れなくなる前に1度は、どうせ抽選で外れるだろう、と思いつつ申し込んでみたところ、めでたく(思いがけなく)倍率4.5倍の選に当り、本年2月17日、東京の街中を走る出場権(=市民ランナー羨望のプラチナチケット)をいただいた。

 中高年者になってから、最も気軽にいつでもできる、という理由もあってジョギングを始めた。小さな市民大会のレースに出る内に次第にこれに“はまり”、10年程前から煙草を完全に絶ち、酒は決して適量を大きくは超えず、体脂肪率は10%程度にコントロールしている。

 当日朝9時、3万人のランナー集団の後の方から新宿都庁前をスタート。靖国-外堀通りから、飯田橋で右折し、皇居を右に見て日比谷を経由し、東京タワーを見上げてから南進し、品川駅前で折り返し、同じ道を日比谷へ、そこから銀座、日本橋、両国を通って浅草雷門で折り返し、再び銀座4丁目へ戻り、築地、豊洲を経て有明の東京ビッグサイトがゴール。この間、沿道の観客、声援、お祭り騒ぎは切れ目なく、大都会の道路をいっぱいに占有し、東京の名所を散見しつつ、25キロ過ぎから膝がガクガクし始めたが、終盤にはTVアナウンサーやタレント(振り返って顔を見ても誰だか知らないのだが、テレビクルーが伴走していたり、沿道から歓声が起こったりしていたので、そういう人だったのだろう)を何人か抜き去り、最後まで気分よく走ることができた。

画像

 記録(ネットタイム)は自分の想定より30分ほど早い4時間40分、総合順位は26,654人中14,691番であった。ゴール直後、ボランティアのおねえさんから「おつかれさまでした」「おめでとうございます」と、完走記念メダルを首にかけてくれたとき、どっと涙がこぼれ落ちしばし眼を開けることができなかったのである。

                  (2008年5月12日、鳥取にて)



    


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 13
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた 驚いた
面白い
ガッツ(がんばれ!)
かわいい
“アイスランドの旅”(2006.6);『シンポ:氷と火山』『変動する氷河』『地球温暖化、NPO』  (NPO)氷河・雪氷圏環境研究舎/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる