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zoom RSS 『地球温暖化と南極氷』『パタゴニア研究の黎明』『気象異変』『巻頭言:南極氷、氷山、氷河崩壊』

<<   作成日時 : 2009/03/28 14:00   >>

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(講演:2008年9月21日)
      『地球温暖化と南極の氷』

                             成瀬 廉二

1.地球温暖化は人間活動の影響か?

 海、砂漠、森林、都会、極地など地球上の全ての地域を含めた平均気温の10年あたりの上昇率は、過去150年で0.045℃、100年で0.074℃、50年で0.128℃でした(IPCC:気候変動に関する政府間パネル、2007)。すなわち、温暖化の進行が加速度的であることが明らかです。この地球温暖化の主要因は人間活動の影響なのでしょうか?

 前世紀から地球上の各地で大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の測定が行われていますが、いずれの地点でも濃度は季節変化を示しながら着実に上昇しています。大気中のCO2濃度が上昇すると、CO2の温室効果が促進され、その結果として地球の平均気温の上昇量が理論的に計算できます。その計算値が上述の全地球平均気温の測定値とほぼ一致します。このことから、過去100年程度の地球温暖化はCO2濃度の上昇によるもので、そしてその急速なCO2増加は人間活動の結果(化石燃料の消費、森林破壊等)以外には考えられません。

2.温暖化で北極や南極の氷が融けて海水面が上昇するか?

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 過去20-30年、北極海の氷が著しく減少していることが人工衛星等の観測で明らかになっています。これは温暖化の影響と考えられています。海氷が消滅して海水面に変化すると、日射の吸収、海水の蒸発、海洋の循環に大きな影響を与え、それが更に地球の気候を変化させています。
 しかし、北極海の氷は水に浮かんでいるので、融けても海水面は変化しません。一方、北極海周辺の島々には氷河(氷帽)がたくさん存在しており、これらの氷河が縮小すると世界の海水面は上昇します。
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 では、南極はどうでしょうか。今後100年間の全地球の平均気温上昇量は1.8〜4.0℃と予想されています(IPCC)。

 南極氷床(写真)の大半の地域は年平均気温が-30から-50℃の世界なので、数度の気温上昇では氷が融けだすことにはなりません。ただし昭和基地があるような沿岸の暖かい地域や南極半島では、夏にはかなり雪や氷が融けるようになります。さらに、温暖化すると、海水温の上昇により海面からの蒸発が増え、南極氷床に降る雪の量が増加することが数値実験により予想されています。
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 したがって、メディア等でときどき見る(聞く)『地球温暖化で南極の氷が融けて世界の海水面が上昇する』という決まり文句は、誤りです。ただし、南極氷床の氷の流れが速くなって、氷山がたくさん生産されるようになる可能性はあり、それは海水面の上昇に寄与します。この「南極の氷の流れ」のメカニズムが、未解明な重要な研究課題となっています。

           {2008.12.30 執筆}
          (鳥取ユネスコ協会 会報: Vol.48, Mar.28, 2009)

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−雪氷研究の歩みと展望− 『パタゴニア氷河研究の黎明』
                                          成 瀬 廉 二

1.はじめに

 日本のパタゴニア氷河研究は北海道から発祥した.いや世界的に見ても,1960年前後にLliboutry (1956)やMercer (1962)・他による氷河の形態,分布,変動等の書物が出版されていたが,個々の氷河のいわゆる氷河物理学的調査研究は皆無であった.世界に先駆けて,パタゴニアの氷河研究が芽生えるきっかけは,1965年,北海道大学山岳部OBの佐伯富男(第1次南極越冬隊),安間荘,遠藤禎一,西村豪による探検謀議に遡る.

2.北海道大学パタゴニア計画委員会

 南アメリカ大陸南端のパタゴニア地域における学術的探検あるいは探検的調査を組織面,財政面,外交面で強固なものにするため,1965年7月,北海道大学内にパタゴニア計画委員会が設置された.これは非公的な任意団体ではあったが,委員長に杉野目晴貞(学長),委員に関係ある部局の教授等(大浦浩文,他)を迎えたので,外部には北大あげての遠征計画に見えたと思われる.
 第1次調査隊は,マゼラン海峡周辺,フェゴ島,パイネ周辺の植物学的・地質学的調査と氷河予察を目的として1965-66年に実施された.隊長は辻井達一,メンバーは上記4名を含む8名であった.その後,広島大学にも同様なパタゴニア調査機運が高まり,第2次隊から第4次隊(1969年)まで両大学合同で調査計画を推進することとなった.
 翌(1967)年の第2次調査隊に,筆者が氷河調査担当として参加することになった.北大大学院地球物理学専攻修士課程1年のときであった.この遠征における未探査地への探検と初歩的氷河調査は,その後の筆者の研究の原点となり,爾来パタゴニアには計11回訪れたことになる. 

3.北パタゴニア氷原周辺の氷河探訪(1967)

 第2次隊(吉田博直隊長)は調査地域を北パタゴニアのタイタオ半島からサン・ヴァレンティン山(Monte San Valentin, 3910 m)周辺に転じた.当時は,1944/45年の空中写真をもとにした25万分の1の暫定地図とLliboutry作成の氷河分布図しかなかった.また,この地域の氷河に関する記述は,我々が調べた限りでは登山隊のレポート等にも見当たらなかった.したがって,この調査計画は「この辺へ行ってみて,行けそうだったらこの付近の氷河を探ってみよう」というようなもので,日程も現在では考えられないほど大まかなものであった.

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   Photo. Monte Sanvalentin from Pampa de Nieve Glacier in February 1967.

 プエルト・アイセン(Pto. Aisen)の町を出発点とし,フィヨルドの中は週一の定期連絡船とゴムボート,陸上では点在している開拓牧場にて馬を借りて物資を運び,人は徒歩により探索した.約2か月の調査期間に訪れた氷河は,北パタゴニア氷原から西のフィヨルドにカービングしているSan Rafael氷河,San Valentin山北面のCirco(後にGrosse)氷河とPampa de Nieve (後にExploradores)氷河,および北氷原から東側に溢流しているSoler氷河であった(図1).
   
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      図1 北パタゴニア氷原と溢流氷河(安仁屋政武より)

 これらの氷河の内,Exploradores氷河とSoler氷河(図2)は,1983年以降の日本隊による氷河研究の主要なフィールドの一つとなった.

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      図2 ソレール氷河の末端にて(1967年3月).
 後列左の2人は馬方親子,その右へ遠藤禎一,関太郎,前列が筆者.背景は氷河末端付近のセラックス地帯.現在(1995年以降)は氷河が後退し,この部分は池となっている.

4.初めて氷河の流動を測る

 この遠征(1967)では,持参した氷河調査用具は,ハンドドリルと折り尺と温度計のみであった.この外に,行動用として双眼鏡,トランシーバー等があった.これらを駆使して,何らかの調査,観測を行うことを考えた.

    
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      図3 ソレール氷河にて融解量の測定(1967年3月).
       観測者,筆者;パートナー,遠藤禎一.
 
 まず、氷河にドリルで穴を開け、周辺に繁茂しているノトロの木の枝を差し込み,毎日の氷の融解量を測定した(図3).

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         図4 氷河の流動速度を測る簡単な方法.
           図の上半分が平面図,下半分が横断面図である.

 次に,氷河の流動速度測定のために,以下のような「見通し法」を考案して,実施した(この方法は,世界中では当然誰かが実施していただろうが,その時および帰国後調べた限りにおいては,記述したものは見つけられなかった).
 その測定法は以下の通りである.氷河の両岸のお互いに見通せる位置に定点を設け,ペンキで大きな印をつける(図4).一方の定点から双眼鏡で他方の定点をのぞきながら,氷河上の協力者にトランシーバーで指示し,見通し線上に立たせる.その線上の測点にドリルで穴を開け,標識の棒(木の枝)を設置する(図3).翌日または数日後,同様の方法で協力者を見通し線上に誘導し,その線から標識までの距離を,氷河の流動方向と思われる方向に沿って紐または巻尺で測る.
 以上の観測の結果,氷河消耗域中流部の1日の平均流動速度として0.4 m/dayが得られた(成瀬・遠藤,1967).この値は,後年の精密測量やGPSによる測定結果と一致するものであった.

5.他大学によるパタゴニア学術探検

 表1に,1950年代後半から1960年代末までに実施された日本の大学等のクラブによるパタゴニアの学術探検活動を示す.この10年余りの間に,非常に数多くの遠征隊が派遣されたことが分る.別に,この時期に外国人に開放されるようになったとか,調査許可が取得しやすくなったとかの外交的事情は全くない.むしろこの頃は、国際航空賃は庶民では手が出ないほど高額だったし(北大隊は片道30日かけて鉄鉱石運搬船に便乗した),外貨の入手にも制限があった.したがって,たまたま同時期にいろいろな母体にて「最後の秘境」としてのパタゴニアが注目されたのであろう.

     表1 パタゴニアにおける日本人の学術調査活動
     (1970年以前)
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 これらの隊のリーダーまたはメンバーの中に,中島暢太郎(故人),成瀬廉二以外に,後に雪氷学会で活躍する団塊の世代の井上次郎(故人),藤井理行,岩田修二,安成哲三等の名前が見られる.
その約10年後,1980年頃だったろうか,パタゴニア経験者たちが集まり,パタゴニア氷河の本格的な調査計画を立ち上げるべきだという協議がまとまった.とは言え,他のメンバー達はヒマラヤとか他のプロジェクトに関わっており,2度の南極越冬とその成果のとりまとめが終了し自由の身となっていた筆者が,世話役(推進役)を務めることになった.

6.科学研究費によるパタゴニア氷河研究

 さっそく中島暢太郎を研究代表者として文部省科研費を申請し,1983年から1986年まで海外学術調査が認められた.以後,科研費による現地調査をGlaciological Research Project in Patagonia (GRPP) と呼び,現在に続いている.
 図5の写真は,GRPP-83/84の成果発表検討会におけるGRPP-83/84とGRPP-85/86のメンバーである.


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       図5 GRPPの初期のメンバー(1985年頃,京都大学).
  前列左から松井覚進,故中島暢太郎,成瀬廉二,小林俊一,中列左から幸島司郎,深見浩司,齊藤隆志,大畑哲夫,永尾一平,山田知充,後列左から藤吉康志,安仁屋政武,故近藤裕史,故福沢卓也,ジノ・カサッサ,故井上次郎

 以後,1990年から1995年までは成瀬が,1998年からは安仁屋が研究代表者となり,科研費によるパタゴニア氷河研究が現在まで続いている.
 一方,1990年代の後半からは,イギリス,オーストリア,アメリカ,スイス,ドイツなどの氷河研究者も積極的かつ組織的にパタゴニアにて現地調査や衛星情報解析を展開するようになり,パタゴニアの氷河は学術的にも世界のマスメディアにも,昨今は非常に注目されるようになってきている.


       文 献

Lliboutry, L., 1956: Nieves y Glaciares de Chile. Ediciones de la Universidad de Chile, Santiago, 471pp.
Mercer, J. H., 1964: Advance of a Patagonian glacier. Journal of Glaciology, 5, 267-268.
成瀬廉二・遠藤禎一,1967:パタゴニア北部の氷河調査.雪氷,29, 167-176.

         {2009.4.3 執筆}

   [(社)日本雪氷学会北海道支部設立50周年記念誌「雪氷研究の系譜」、
2009年9月15日]


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(同人誌すまたぽぽひ2012) 『温暖化と気象異変』

                           成瀬 廉二

 鳥取へ転居して5年が経った。鳥取市内にある大砂丘は、四季と天候により趣を変え、その雄大さと変幻さでは他を寄せつけず日本一である。鳥取が誇る山陰の幸は、松葉ガニと二十世紀梨が代表格と言われているが、岩ガキと砂丘ラッキョウも推奨したい。

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           鳥取大砂丘(2006年12月)

 鳥取県の人口は現在58万人、全国47都道府県の中で堂々最下位である。そのため、参議院の1票の格差では、しばしば鳥取が引き合いに出される。県や市の財政は決して豊かではないが、静かで、人々は穏やかで、所用があっても大抵は徒歩、自転車、車で15分以内、大変暮らしやすい中都市である。

 NPO法人氷河・雪氷圏環境研究舎は、この鳥取を拠点とし、そこそこ多忙に、やや気ままに、地球環境問題に関する普及、啓発、解説、教育活動を行っている。昨年までは、講演やセミナー等のテーマは「地球温暖化」が中心だった。しかし、3.11の大震災を機に、温暖化の問題は吹っ飛んでしまった感がある。それは当然のことで、被災地の復旧と復興、ならびに化石燃料と原子力にとって代わる真にクリーンな自然(再生可能)エネルギーの開発、普及は喫緊の課題であり、1、2年の内にははっきりとした道筋をつけなければならない。それに比べ、温暖化の問題は、10年後、数10年後、数100年後の地球環境をいかに著しく悪化させずに抑えるか、という長期的視点の分析と予測にもとづく対策、指針である。

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         山陰海岸ジオパーク(2011年8月)

 昨年の半ば頃から、最近の猛暑やゲリラ豪雨など、気象の異変について講演や講話の依頼が増えてきた。事実、昨年夏(6-8月)の日本全国の平均気温は過去113年間で最高、鳥取市の平均気温も過去67年間で1位タイであった。また、昨年10月、奄美大島の記録的な集中豪雨により、名瀬では2日間に700ミリを越える雨が降ってびっくりしたが、今年7月、徳島県南部に上陸した直後U字を描いて去って行った台風6号により、高知県魚梁瀬(やなせ)にて24時間降水量が851ミリという日本記録が更新された。
 このように、気象のさまざまな側面において、新記録あるいは観測開始以来初めてという現象が多発しているように見える。気象庁では、原則として、ある地点、ある時季において30年に1回以下の現象を「異常」と定義している。一方、本稿のタイトルの「異変」は、もう少し広い、一般的な意味にて使っている。このような、最近の異常気象や気象異変は、果たして地球温暖化の直接的な影響なのだろうか。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)2007年報告では、21世紀は、
 ❉大雨の頻度の増加:可能性が非常に高い(Very likely: 確率90%以上)
 ✺干ばつの地域の増加:可能性が高い(Likely: 確率66%以上)
と予測している。ただし、どの地域に、いつ、どのくらい増えるのか減るのか、という定量的な細かい予測は現状では難しい。

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            鳥取市、仁風閣(2011年1月)

 しかし、気象庁の統計資料を見る限りにおいて、過去30年間、例えば太平洋における台風発生個数、日降水量200ミリ以上あるいは時間降水量50ミリ以上の観測回数、竜巻の発生確認数、豪雪の地点数、等々いずれも顕著に増加している傾向は認められない。ということは、異常気象の発生回数は特に多くはなっていないが、起こるときはその現象が激しく、かつ著しく極端な(extreme)現象となっているのかもしれない。先日、鳥取県西部の小さな町(日野町)に伺ったとき、町長が「鳥取県では、大きな地震は数十年は起こらないだろう、と専門家から聞いている。これからの重点対策は気象災害だ。特に、ゲリラ豪雨は予測ができないので困る」と話していた。これが当っているかどうか分からないが、気象に起因する災害は今後ますます増加することが考えられる。
 長期的には地球温暖化、短期的には気象異変の多発が昨今の大きな環境問題である。                  
                       (2011年11月8日、鳥取にて)

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 [放送大学 ぷりずむ 巻頭言] 『地球温暖化と南極』   
                                     成瀬 廉二

 地球の平均気温は、最も信頼できる統計によると、過去100年で0.7〜0.8℃上昇しました。陸上の昇温率はこの平均より大きく、100年で1〜2℃、さらに大都会では3℃程度に達します。一方、海は陸に比べて暖まりにくく冷めにくいので、海上の平均気温は、過去100年で0.5℃程度の上昇にとどまっています。

 では、南極ではどうでしょうか。「地球全体が暖まっているので、南極だって当然でしょ」と思う方が多いでしょう。そのため、「南極の氷がどんどん融けて、海水面が上がり、世界各地でいくつかの島や都市が水没する」という論調が、受け入れやすくなっているようです。

 南極が温暖化しているかどうかは、実は簡単には答えが出ない、目下論争中の課題の一つです。その第1の理由は、長期間にわたり気象観測が行われてきた観測基地は、2箇所を除いて、全て南極氷床周辺の沿岸にあります。ということは、日本列島の面積の37倍の広さで、平均の標高が約2000 mの氷の大陸(氷床という)のほとんどの地域では長期間の詳細なデータがありません。第2の理由は、気候変動を見るためには、少なくとも30年以上にわたる変化の傾向を調べなければなりませんが、南極では30-50年にわたり連続した気象データが得られている基地は多くはないことです。短い期間の観測結果からは、誤った結論を導く恐れがあります。例えば、地球全体や日本の平均気温でも、1940〜1960年までの20年間だけを見ると明らかに寒冷化が認められます。

 限られたデータにもとづく従来の解析結果では、「過去半世紀間、西南極の南極半島(南米大陸の南端に近接する地域)は著しく温暖化、一方東南極の大部分では変化なし又はやや寒冷化」というものでした。ところが今年になって、人工衛星から赤外放射測定による氷床表面温度データを用い、さらに観測基地や無人気象観測点の気温データを詳細に解析した結果、従来の定説をくつがえす論文が発表されました。その結論は、「東南極では50年間に約0.5℃、西南極では50年間に約0.85℃上昇した」というものです。この昇温率は地球全体の平均よりやや大きい値です。
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 今後100年間の全地球の平均気温上昇量は、1.8℃から4.0℃と予想されています。その主要な原因は、大気中の二酸化炭素濃度の増加によるので、温暖化の程度や時間の遅れはあるでしょうが、いずれは南極にも顕著に温暖化が現れることに違いありません。しかし、南極氷床の大半の地域は年平均気温が-30から-50℃の低温環境なので、数度の気温上昇では氷が融けだすことにはなりません。ただし氷床周縁の比較的暖かい地域や南極半島では、夏にはかなり雪や氷が融けるようになります。一方、温暖化すると、海水温の上昇により海面からの蒸発が増え、南極氷床に降る雪の量が増加することが考えられます。これは南極の氷を増やすことになります。したがって、新聞やテレビやCMでときどき見る(聞く)『(近い将来)南極の氷が融けて海水面が上昇する』という決まり文句は、誤りです。ただし、温暖化にともない南極氷床の氷の流れが速くなる可能性を指摘する説もあり、もしそうなると、氷床から氷山がたくさん生産されるようになり、それは海水面の上昇に寄与します。この「地球温暖化と南極の氷の振る舞い」が、昨今の重要な研究課題となっています。

      (放送大学鳥取学習センター機関誌 115号、2009年5月)

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  [放送大学 ぷりずむ 巻頭言] 『氷山のはなし』                                 
                                    成瀬 廉二

 猛暑が続く毎日、コップに浮かぶ氷に触れる機会が多いかと思う。そこで、海に浮かび、大洋を漂流する氷山の話題をお届けしよう。
 雪に被われた山を一般に雪山と言うが、氷山は氷を頂く山ではなく、氷河や氷床(極地の大氷河)から海に流れ出て、水に浮く大きな氷の塊のことである。南極やグリーンランド氷床、あるいは北極諸島の氷河の先端や縁辺部が崩落し、海へ流出して氷山となる。表面が平坦なテーブル型氷山(写真1)は氷島とも言う。
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  写真1.砕氷船「ふじ」から見た大きなテーブル型氷山(南極周辺海洋、1968年12月).

 氷河や氷床は、積もった雪が長い年月を経て氷になったものである。したがって、氷山もその起源は雪であり、その氷は塩分や不純物をほとんど含まない。例えば、南極の氷山の氷に含まれるカルシウムやマグネシウムの量は、ミネラルウォーターに比べると4桁程度少ない。そういう意味では、南極の氷は食べても無味で、特に旨いという感じはしない。しかし、その氷は数万年前か数十万年前かは分からないが、人類が地球環境を汚染する以前に降った雪からできた氷で、そこに含まれる気泡は太古の空気である、と思って氷をかじり、溶ける水を飲めば、この上なく美味しく感じるものである。
 さて、南極やグリーンランドの氷床は、中央付近の氷の厚さは3,000 mを超える。その氷の重みで、氷床は周囲の海に向かってゆっくり流れている。氷床の周縁部が海に押し出し、海水に浮くとその部分は棚氷と呼ばれ、棚氷が割れて流れ出た大氷塊が氷山である。四季を問わずいつでも、南極やグリーンランドのどこかでは大小の氷山が生産されている。南極氷床では氷の融ける量は多くはないので、氷床上に1年間に積もる雪の量(重さ)に匹敵する量の氷が氷山となって南極から排出されているのである。
 純氷の密度は917 kg/m3、気泡を多少含むと910 kg/m3程度、海水の密度を1028 kg/m3とすると、海に浮かぶ氷山は全体積の11%のみが水面上に現れている。まさに「氷山の一角」しか見えていない。写真2のような氷山でも、水面下の広い範囲に氷塊が隠れている可能性もある。
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  写真2.海洋を漂流中に融解と崩壊が進んだ氷山(南極周辺を航行中の砕氷船「しらせ」から、1993年2月).

 十数年前から、南極、北極とも、人工衛星により大きな氷山は監視され、インターネット上にそれらの大きさと位置情報が公開されている。観測史上最大の氷山は、2000年3月に南極のロス棚氷から分離した巨大氷山で、長さ295 km、幅37 km、面積11,000 km2は鳥取県と島根県をあわせた面積に相当する。この氷山はその後いくつかに分裂したが、それら大小の氷山は現在も南極大陸周辺の海氷野のなかに閉じ込められ存在している(写真3はそのような状況を示す)。
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  写真3.海氷に囲まれた氷山(南極昭和基地付近、1993年).

 何らかのきっかけで、氷山が海氷野から外洋に出ると、主に海流と風の影響を受けて漂流し、暖かい海域に入ると融解と氷の崩壊が進み、多数の氷塊に分裂し(写真2)、加速的に消滅に向かう。すなわち、海から蒸発した水蒸気が雪となって南極氷床に降り、十万年オーダーの後、氷山となって海に流出し、やがて融けて海水に還るのである。


  成瀬 廉二
  NPO法人 氷河・雪氷圏環境研究舎 (代表) 
  <http://www.npo-glacier.net/>
元、南極観測越冬隊(1968-70年、1972-74年)、夏隊長(1992-93年)
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  [写真]パタゴニア(アルゼンチン)・ウプサラ氷河の先端の湖に浮かぶ氷山.
   (2007年1月)

           (放送大学鳥取学習センター機関誌 123号、2010年 9月)

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  [放送大学 ぷりずむ 巻頭言] 『氷河の崩壊』                                 
                                    成瀬 廉二

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  写真(1) パタゴニア・サンラファエル氷河(チリ、1983年11月).
      氷壁の高さは水面上60 m.

 氷河の先端の氷の壁がググッと崩れ、直後に大きな氷の塔が壁から倒壊し(写真1)、湖に氷塊が落下すると大きな水しぶきを上げ、津波が発生する(写真2)。このような映像が、昨年、一昨年は、テレビのニュースやCMで頻繁に流されたものである。場所は、多くの場合、アラスカ南東部の海の入り江(フィヨルド)に流れ出ている氷河である。

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  写真(2) パタゴニア・ペリートモレノ氷河(アルゼンチン、1993年11月).
      氷塊の崩落地点の横に、観光用の遊覧船が見える.

 これは、「地球温暖化」のイメージ映像である。温暖化は目に見えない。氷壁が崩れ、氷河の一部が崩壊する様は、いかにも地球温暖化の結果の様に見える。しかし、これは真実を語っているわけではないことをメディア側も気づいたためか、最近はあまり見なくなった。
 この現象、すなわち氷河、氷床(極地の大きな氷河)、棚氷(氷床の端が水に浮いた部分)の末端から大小の氷塊が海や湖に崩壊することを、カービング(calving)と言う。カタカナで表すとcarving(彫ること、彫刻)もcurving(曲がること)もカービングだが、この場合のカーブ(calve)という動詞は”動物が子を産む”という意味である。すなわち、氷床や棚氷、あるいは湖やフィヨルドに流出する氷河の末端が氷山を産出するので、こう名づけられたものである。 
 さて、南極や北極(グリーンランド)の氷床では、氷が融けることは少ないので、氷床および氷河は、1年間に積もる雪の総量に匹敵する氷をカービングにより海に放出し、氷山が次々に誕生している。氷床・氷河の年間の全消耗(質量が減る)量に占めるカービング量の割合は,南極氷床では97%,グリーンランド氷床では57%,山岳氷河と氷帽では7%と見積もられている。このようにカービングは、特殊な出来事ではなく、南極やグリーンランドの氷床、アラスカやパタゴニアの氷河では、昔から四季を問わず、日常茶飯事として起こってきたことである。地球温暖化が進んできたから、カービングがとくに激しくなってきた、というきちっとした因果関係は認められていない。
 ところで、最近、アメリカNASAの研究者(K.M. Brunt、他)が「東北地方太平洋沖地震の津波による南極棚氷の崩壊」という論文を発表した。今年3月11日に発生した地震の表面波は南極ロス海付近に1時間後に到着したと推測され、津波はモデル計算とロス海の検潮儀により18時間後に第1波が到着した。NASAのMODIS人工衛星画像によると、その1日後、南極スルツバーガー棚氷から、長さ10 km、幅6 kmの氷山が分離したことが認められた。地図の青丸印の南側の縁が同棚氷の位置を示す。同じく、ヨーロッパ宇宙機関のエンビサット衛星の観測によっても、同時期にスルツバーガー棚氷から合計125 km2 の氷山が分離したことが確認された。

  
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  南極地図.青丸印の南側の縁がスルツバーガー棚氷.


 ロス海西部の検潮儀の記録によると、津波の振幅は最大20 cmであった。この大きさは、低気圧による波浪や、潮汐に比べてかなり小さい。しかし、過去46年以上の間、ほとんど変化のなかったスルツバーガー棚氷が、繰り返し襲来した津波の期間中に棚氷が破壊して、巨大氷山が誕生したので、津波が引き金になって氷が割れた、と論文の著者らは論じている。日本の地震と津波が地球の裏側の南極に被害を与えたわけではないが、氷床や氷河の末端の崩壊を促すメカニズムに、気温、水温、対流、波浪、潮流、潮汐等に加えて津波の影響が新たに明らかになった、ということは氷河学的に大きな意味がある。

      (放送大学鳥取学習センター機関誌 130号、2011年11月)








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『地球温暖化と南極氷』『パタゴニア研究の黎明』『気象異変』『巻頭言:南極氷、氷山、氷河崩壊』 (NPO)氷河・雪氷圏環境研究舎/BIGLOBEウェブリブログ
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