『変動する世界の氷河、海面変動』、『地球温暖化とNPO法人』

[講演]{2007年5月}
(講演)『変動する世界の氷河、および地球温暖化と海面変動』
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    図1.ウプサラ氷河の末端付近(上:1993年11月、下:1999年3月)
1.多くの山岳氷河は後退(縮小)傾向

 昨今、世界各地の山岳氷河が激しく後退している実情が報告されている。一例として、南米パタゴニアのウプサラ氷河の1993年~1999年の変動の様子を図1に示す。幅3kmの同氷河は写真の右から左へ流れ、末端は湖へ流出し、氷塊が崩れ落ち、氷山となって湖に漂う。この5年間で、ウプサラ(Upsala)氷河の末端は約2km後退した。この後退速度は、ヒマラヤやアルプスの氷河に比べて1桁大きい。その第1の原因は、氷河末端が湖(あるいは海)へ流出していること(カービングcalvingという)による。                
 パタゴニアの代表的な8個のカービング型氷河の末端変動を図2に示す。右上がりの折れ線が氷河の前進を、右下がりが後退を表している。オヒギンス(O’Higgins)氷河は1945年から40年間、ウプサラ氷河は1970年代末から2000年にかけて著しく後退したことが分かる。一方、フィヨルドへ流出しているピオ11世(Pio XI)氷河は氷河末端が前進した。このように、カービング型氷河の振る舞いは、単純に気候の反映ではなく複雑である。

 アジア、ヨーロッパ、北米大陸等では後退している氷河が多いが、中には近年前進している氷河もある。とくにスカンジナビアでは前進氷河の方が後退氷河より多い。このように、「地球温暖化→氷河後退」の単純な図式では説明できない事例も少なくない。
氷河は、降雪によって養われ、融解とカービングによって消耗する。年間の総降雪量より総消耗量が多いと、氷河の体積が減少する。したがって、氷河の変動は気温のみの影響ではない。温暖化しても降雪量が増せば、氷河は拡大し得るのである。また気候が変化してから、氷河の末端が前進・後退の変化を示すまでには、ふつうの谷氷河で数十年程度の時間を要する。したがって、最近数年間、氷河が後退しているからと言って温暖化の影響と直ちに結論づけることはできない。

 我々が氷河の現地調査、あるいは航空機や人工衛星により観測可能な氷河変動は、大きく分けると、
 1)末端の前進・後退(一次元情報)、
 2)面積変化(二次元情報)、
 3)氷厚変化(面積と合わせて三次元情報)、
 4)質量収支変化(詳細な観測が必要)がある。
 水資源や水循環、海面変動の観点からは、3)または4)のデータが必要である。
氷河表面の高さを地上から測量し、異なる年の同じ季節の高度の差から、氷厚の変化が求められる。パタゴニアの数個の氷河の観測結果を図3に示す。モレノ(Moreno)氷河は氷厚が不変、ウプサラ氷河は年に11mという急速な氷厚減少を示したことが分かった。

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           図2.パタゴニアの氷河の末端変動      
         縦軸は氷河の末端位置(流動方向の距離).   

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           図3.パタゴニアの氷河の氷厚変動 
         縦軸は氷厚の年増加速度(負の値は減少)

2.地球温暖化と海水面変化

 全地球の平均気温は、過去100年間(1906-2005年)で0.74℃上昇したと見積もられている(IPCC, 2007)。一方、人びとが暮らす地域の気温の上昇量はこれより大きい。さらに、大都市ではこれが著しく、例えば東京では20世紀の100年間に年平均気温が約3℃上昇した。IPCC報告書によると、今後21世紀末までの100年間は、温暖化傾向が加速し、全地球の平均気温は1.8℃から4.0℃程度上昇すると予測されている。

 全地球の平均海水面は、各地の検潮儀による観測データの解析の結果、過去100年間で約10cm弱上昇したことが分かっている。その約半分は、温暖化にともなう海水温の上昇による海水の熱膨張、他の半分は山岳氷河と北極氷冠の融解によると見積もられている。このように、南極や北極の氷床に比べて総面積は小さいながら、山岳氷河の後退の影響は大きい。

 一方、今後100年間に予想される平均海面上昇量は約50cmと著しく、その内訳見積もりでは、約半分が海水の熱膨張、他の半分が氷河・氷帽の融解による。地球温暖化にともない、亜熱帯の陸域では乾燥傾向となり、高緯度地域では降水量が増加すると予測されている。したがって、南極の氷床は、温暖化により降雪量が増加するため、内陸部の氷は厚くなり、海水面を低下させる傾向になると考えられる。グリーンランドの氷床は、沿岸部の温暖地域は氷の融解量が増し、内陸部は降雪量が増し、差し引き海水面変動に大きな影響を与えないと予想されている。しかし、極地氷床の振る舞いについては未解明のことも多く、その予測は不確実性を多く含んでいる。

                 (NPO法人)氷河・雪氷圏環境研究舎 成瀬廉二 

   (2007年5月26日、鳥取地学会 特別講演概要、場所:鳥取県立博物館) 

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(同人誌すまたぽぽひ2008) 『地球温暖化とNPO法人』

1.鳥取を拠点として 

 2年前(1996年)の3月31日夜遅く、苫小牧港をフェリーで発った。幼少期の短い期間しか暮らしたことがないが、戸籍上はれっきとした私の故郷である鳥取へ移り住み、4月の初めから新しいNPOの活動を始めるためであった。

 そのNPOは、正式名を「特定非営利活動法人 氷河・雪氷圏環境研究舎」と言う。大変長く、一般の人には読みにくい屋号だが、このネーミングにあたっては、私なりの理由とこだわりがあり、熟慮の結果である。まず、40余年にわたり私が行ってきた研究の中心を指す「氷河」は不可欠、しかし氷河のみでは特殊な対象と思われるので「雪氷圏」と広くし、さらにこれだけでは世間に馴染みが薄いので多方面で頻繁に使われるキーワード「環境」を加えた。末尾の組織体を示す語には、会、会議、所、センター、フォーラム、ネットワーク等が考えられたが、ありふれていないということで「研究舎」とした。
なお、本年3月31日現在、我が国のNPO法人総数は34,371件に達している。その内、法人の名に「雪氷」が含まれているのは4団体あるが、「氷河」または「雪氷圏」はここ以外にはない。 

2.NPO法人とは

 NPOとはNonprofit Organizationの略であり、営利を目的としない組織(団体)のことである。その内、NPO法(1998年施行)にもとづく法人は特定非営利活動法人と呼ばれる。ここで言う非営利とは、事業により収益を得ても、活動経費や団体管理費に支出し、それでもお金が余ったら会員(構成員)に配当しないで次の活動に使う、ということでも良い。そのため、数あるNPO法人の中には、小さな会社に匹敵するような財政規模で事業(福祉やスポーツクラブ等)を展開している団体もある。別に違法ではなく、NPOの方が小回りが利く等の利点もあるのだろう。

 これと似た名前に、NGO(Non-Governmental Organization:非政府組織)がある。NGOは、国連や紛争地域、災害現場等で、特定な国とは関係のない立場で活動する団体に対して使われている。あらゆるNGOは非営利目的なのでNPOであり、すべてのNPOは非政府なのでNGOであると言える。つまり、両者のどちらかがどちらを含む、という関係ではなく、営利か否か、官か民か、という視点の分類である。

 我々の周辺には非常に多くの任意団体、ボランティア組織、親睦会等がある。これらの内、非営利かつ公益(不特定多数の益となる)活動を行っている民間の団体は、広義のNPOである。そのNPOのある団体が、NPO法で定めた17分野の特定な活動を行うことを主目的として県または内閣府に設立申請すると、とくに問題がなければNPO法人として認証される。現在設立されている全NPO法人が看板に掲げた17分野の内、多い順番とそのパーセント(複数回答)は以下の通りである。1)保健・医療・福祉(58%)、2)社会教育(46%)、3)他団体への助言・支援等(45%)、4)まちづくり推進(40%)、5)子どもの健全育成(40%)、6)学術・文化・芸術・スポーツの振興(32%)、7)環境保全(28%)が続く(内閣府のHPより)。

3.昨今の地球環境の諸問題

 当NPOは、『氷河および雪氷圏環境に関する教育・普及・研究』を看板に掲げ、インターネットによる情報伝達、解説、意見交換を平常の活動とし、時に各地で講演会、セミナー、談話等による普及、啓発活動を、それほど一生懸命にではなく、気の進むまま程ほどに行っている。

 昨今、地球温暖化の問題が、新聞、テレビ、雑誌、広告、書物に氾濫し、やや情報過多、感情論に走りがちである。専門分野から言うと、この問題にかなり関係が深い私としては、いたずらに危機感を煽るのではなく、事実を直視し、科学的に信頼できる予測を受け入れ、冷静に、長期的展望で地球環境問題に対処すべきである、というスタンスで機会があれば発言している。

 各種報道には、明らかな誤り、誤解を招きやすい記述、誤りとは言えないが事実を的確に捉えていない、等々がときどき認められる。それらの内、以下に2、3の例を挙げよう。

(1)『地球温暖化で南極の氷が溶けて世界の海水面が上昇する』
これは誤りである。100年後の全地球平均気温は、2~4度程度上昇すると予測されている。南極の大部分はまだ十分寒いので、氷は融けない。ただし昭和基地があるような沿岸の暖かい地域では、夏にはかなり融けるようになる。しかし、南極氷床全体としては海水面を上昇させることはない。

(2)『地球温暖化で北極の氷が溶けて世界の海水面が上昇する』
北極と言うとき、北極海を指している(氷の上に乗ったシロクマの写真付)なら誤り。海の氷は浮いているので融けても水面の位置は変わらない(アルキメデスの原理)。
 北極を周辺の陸地を含む地域(北極圏)とすると、正しい。そこには数多くの氷河や氷帽が存在し、それらの融解・消滅が海水面上昇に大きく寄与する。

(3)『(氷河の末端の氷壁がフィヨルドか湖に崩れ落ちる映像とともに)地球温暖化が進んでいる.....!』
氷河末端が崩壊する現象は温暖化とは関係がない。昔も今も氷河の崩壊現象に大きな差はない。「温暖化」は眼に見えないので、イメージ映像としては格好な題材なのであろうが....。

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4.結びにかえて=東京42.195キロ走=

 これは本論とはまったく関係がないので、「まとめ」でも結語でもなく、付録か、付け足しか、蛇足である。

 昨夏、走れなくなる前に1度は、どうせ抽選で外れるだろう、と思いつつ申し込んでみたところ、めでたく(思いがけなく)倍率4.5倍の選に当り、本年2月17日、東京の街中を走る出場権(=市民ランナー羨望のプラチナチケット)をいただいた。

 中高年者になってから、最も気軽にいつでもできる、という理由もあってジョギングを始めた。小さな市民大会のレースに出る内に次第にこれに“はまり”、10年程前から煙草を完全に絶ち、酒は決して適量を大きくは超えず、体脂肪率は10%程度にコントロールしている。

 当日朝9時、3万人のランナー集団の後の方から新宿都庁前をスタート。靖国-外堀通りから、飯田橋で右折し、皇居を右に見て日比谷を経由し、東京タワーを見上げてから南進し、品川駅前で折り返し、同じ道を日比谷へ、そこから銀座、日本橋、両国を通って浅草雷門で折り返し、再び銀座4丁目へ戻り、築地、豊洲を経て有明の東京ビッグサイトがゴール。この間、沿道の観客、声援、お祭り騒ぎは切れ目なく、大都会の道路をいっぱいに占有し、東京の名所を散見しつつ、25キロ過ぎから膝がガクガクし始めたが、終盤にはTVアナウンサーやタレント(振り返って顔を見ても誰だか知らないのだが、テレビクルーが伴走していたり、沿道から歓声が起こったりしていたので、そういう人だったのだろう)を何人か抜き去り、最後まで気分よく走ることができた。

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 記録(ネットタイム)は自分の想定より30分ほど早い4時間40分、総合順位は26,654人中14,691番であった。ゴール直後、ボランティアのおねえさんから「おつかれさまでした」「おめでとうございます」と、完走記念メダルを首にかけてくれたとき、どっと涙がこぼれ落ちしばし眼を開けることができなかったのである。

                  (2008年5月12日、鳥取にて)

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