アイスランドの旅(2006.6)、『シンポ:氷と火山』

No.537 「アイスランドの旅 (前)」 (2006.7.1投稿)    成瀬廉二、2006/07/01(Sat)
 
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     [Photo]ゲイシールの間歇泉(2006.6.24)
 6月18日から27日までアイスランドへ行ってきました。火山と氷河に関する国際学会(*)出席と会議後の研修旅行に参加するためです。
 私は多くの日本人同様、アイスランドに関する知識は乏しいものでした。北欧の西北、大西洋に浮かぶ小さな島国で、活発な火山がたくさんあり、ヴァイキングを祖先とする人々が暮らしている、という程度のものでした。
 ただし私はそれに加え、アイスランドの氷河およびこの国特有のヨコロウプ(**)という氷河洪水に関する論文を読んだり国際会議で発表を聞いたことがあり、強く興味を引かれぜひ一度は行きたいと思っていた国でした。

 アイスランドの面積は日本の約1/4、その内の10%強が氷河に覆われています。それらの氷河の大半は、いまも活発な火山の上にあり、それ故に氷河の振る舞いも独特です。人口は約29万人で、鳥取県の半分しかいません。たしかに、きれいに整備された近代都市レイキャビックの街中でも、旅行者を除くと地元の人が歩いているのを見かけるのは稀なような気がします。

 国の経済は、漁業と水産加工業が主で、近年は観光産業が著しく伸びているそうです。国民の平均寿命は日本と並んで世界のトップクラスです。日常生活に関わる物価は、ヨーロッパで一番高いかそのレベルだ、とヨーロッパから来た人が言っていました。私が短期間に見ただけの印象ですが、人々の生活水準は全般に豊かで高く、国の経済を支える特段の輸出工業がなくても、これが維持されていることがとても不思議に感じました。

(*) International Symposium on Earth and Planetary Ice-Volcano Interactions
(**) jokulhlaup

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No.546 「アイスランドの旅 (中)」

      成瀬廉二、2006/07/06(Thu)

 国際会議は首都レイキャビックにあるアイスランド大学にて4日間にわたって開催されました。シンポジウムのテーマは「氷河と火山の相互作用」であり、まさにアイスランドを特徴づける最もふさわしい標語と言えます。

 アイスランドは北アメリカプレートとユーラシアプレートの境い目にあり、両プレートは年に2cmの速さでお互いに離れつつあります。そのため地震の多発地域であると同時に、地下のマグマが上昇しやすく火山の活動が昔から非常に活発です。

 アイスランドには現在も活発な火山が約20個あり、その約半分は氷河におおわれています。人々が住み着いた9世紀以降は、平均すると5年に1回どこかの火山が噴火したとのことです。

 日本で言えば、阿寒岳とか浅間山とか桜島とかが厚い氷に被われているようなものでしょう。そうすると、アルプスやヒマラヤ等の氷河とは特性が大きく異なります。

 その1つは、地熱が高いために、氷河の底で氷がたくさん融けることです。融け水は氷河と岩盤の間に水の層として溜まり、年々その水の量が増すと深さ100mをも超える湖(氷下湖という)となることがあります。氷河がその水を保持できなくなると、氷河の一部が決壊し、大量の水が短期間に流出し、下流域に洪水を起こします。これが、ヨコロウプです。

 アイスランドの氷河のもう一つの特徴は、氷河の下で火山噴火が起こることです。小規模の噴火の場合は、氷河の底に溶岩が流れ出て、その熱で氷を溶かし、溶岩と氷の融け水が混じった泥流の洪水を起こします。

 また、氷河の下で大規模な噴火が起こると、火山灰や溶岩等が氷河を突き抜けて噴出し、氷や岩や火山噴出物を含んだ泥流がふもとに大洪水を起こします。

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     [Photo]アイスランド大学におけるポスター発表(2006.6.21)

 シンポジウムでは、このような火山地域の氷河の研究のみではなく、氷河に被われた火山の地震、重力、化学、地質等の研究の発表が行われました。このように、専門が著しく異なる研究者が一堂に会して研究成果を発表し、議論することは、ふつうの学会ではあまりないことです。

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No.588 「アイスランドの旅 (後)」

        成瀬廉二、2006/07/13(Thu)

 シンポジウムの中日には日帰りの、終了後には2泊3日の研修旅行が企画されました。案内役は地元アイスランド大学および気象局の地質や火山学、氷河学の専門家です。

 レイキャビックからバスで30分ほども郊外に行くと、見るべき自然景観にこと欠きません。池、湖、滝、海岸、山、氷河など。この研修では、当然ながら一般の観光客はあまり立ち止まらない場所で、歩きながら詳しい解説を受けました。

 
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     [Photo]ミィダルスヨックル氷帽から流出する氷河の末端(2006.6.25)

 まず、火山噴火により生じた地形や溶岩の原野。若い頃北海道の山々(およそ半分は火山)をかなり隈なく歩いた私にとっては、これらは見慣れた風景です。しかしアイスランドでは、さらに火山泥流や氷河洪水による氾濫原などがあちこちで見ることが出来ました。この国特有の、このような泥流や洪水に関する基礎的、工学的研究が進んでいます。

 また、地震国アイスランドでは、耐震建築が完備され、2000年6月、マグニチュード6.6の直下型地震でもビル、家屋の倒壊はほとんどなかったそうです。

 アイスランドの国にとって重要な特筆すべきことは、地熱をエネルギーとして有効に利用していることです。この国では、全エネルギーの約40%は地熱発電によっているそうです。

 レイキャビック郊外の地熱発電所を見学しました。高温の地熱地帯にいくつかの発電所が建設されています。遠くから見ると山あいに工場の建物がポツンとあるようなものです。そこでは、地下1,000mから2,000mの掘削孔があり、1,000mでは温度は200度C以上、2,000mでは350度以上とのことです。掘削孔を通し高温高圧の蒸気をとり出し、スチームタービンで発電します。

 得られた電気は、レイキャビック等の都会へ送電されますが、環境景観を考慮して、送電線の半分近くは地下埋設となっています。

 発電にともない生じた温水と排熱で、地下からくみ上げた冷水を温め、高温の湯を都会へパイプ輸送し、住宅の暖房の大半をまかなっています。レイキャビックまでの全長23kmを、約100度の温水を重力の作用で輸送し、その間の温度低下はわずか2度C以下とのことでした。

 地熱発電は、大気中へ温室効果ガスなどの汚染物質をまったく排出せず、水力発電のように自然環境を改変させることもなく、現在実用化されている各種発電の中では、最も望ましいエネルギー供給法だと思います。

 日本のあちこちの温泉地域では、湧出温泉量の減少と泉温の低下が問題となっています。温泉の湯の元は地上に降った雨なので、過度に汲み上げたら不足するのは当然です。これに比べて、火山地帯の地下のマグマの熱は、人類の歴史程度の時間スケールで考えた場合は、ほぼ”無尽蔵”と言えるのではないでしょうか。

                      (おわり)

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 『IGSシンポジウム「氷と火山の相互作用」報告』

  
           (NPO)氷河・雪氷圏環境研究舎 成瀬 廉二

1.まえがき

 IGS (国際雪氷学会)主催の国際シンポジウム" Earth and Planetary Ice-Volcano Interactions (地球と惑星における氷と火山の相互作用)”が、2006年6月19日から23日にかけて、アイスランドの首都レイキャビックのアイスランド大学にて開催された。火山と氷河で特徴づけられるアイスランドにとって、このシンポジウムのテーマはまさにぴったりというものであった。
開催地がヨーロッパ北部の諸都市から最短でも空路3時間というやや遠隔地であったためか、出席者約80名(同伴者を除く)の内、地元アイスランドを除くと58名と、比較的小規模なシンポジウムとなった。発表された論文数は、口頭60、ポスター11(写真1)の計71件であり、その内の約半数はアイスランドの氷河と火山に関するものであった。以下、カッコ内の引用は第1著者のみを記す。

 
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          写真1.アイスランド大学の自然科学棟におけるポスターセッション.
 
2.アイスランドの氷河、氷下湖、ヨコロウプ

 アイスランドは、北アメリカプレートとユーラシアプレートの境界面の上にあり、両プレートは年に2cmの速さでお互いに離れつつあるため、地震の多発地域であると同時に、地下のマグマが上昇しやすく火山の活動が非常に盛んである。アイスランドには現在も活発な火山が約20個あり、その内主要な3つの火山(Hekla、Katla、Grímsvötn)だけで、アイスランドに人々が住み着いた9世紀以降に合計約100回噴火したことが記録されている(M. Roberts)。
 アイスランドの面積は日本の約1/4、その内の10%強が氷河に被われている。それらの氷河の約60%は活発な火山の上にあり、それ故に氷河の振る舞いも独特である。
 その1つは、地熱が高いために、氷河の底で氷がたくさん融けることである。高地熱地帯では、氷河の総消耗量の90%以上が底面融解によると見積もられた(H. Björnsson)。融け水は氷河と岩盤の間に水の層として溜まり、年々その水の量が増すと深さ100mをも超える湖(氷下湖 、subglacial lake)となることがある。氷河がその水を保持できなくなると、氷河の一部が決壊し、あるいは氷河底面の水路が拡大し、大量の水が短期間に流出し、下流域に洪水を起こす。これが、アイスランド発祥の氷河洪水ヨコロウプ(jökulhlaup)である。
 アイスランドの氷河のもう一つの特徴は、氷河の下で火山噴火が起こることである。小規模の噴火の場合は、氷河の底に溶岩が流れ出て、その熱で氷を溶かし、溶岩と氷の融け水が混じった火山泥流(ラハール、lahar)の洪水となる。また、氷河の下で大規模な噴火が起こると、火山灰や溶岩等が氷河を突き抜けて噴出し、氷や岩や火山噴出物を含んだ大規模な土石流や泥流がふもとに大洪水を引き起こす。

3.セッション

 本シンポジウムは以下の6つのトピックスで論文募集が行われ、実際の口頭発表もこのセッションにしたがって実施された。おそらく著者が「最も関連が深い」と指示したトピックスにしたがってプログラムが組まれたと思われ、その結果トピックス1)に偏りが生ずるとともに、同種の研究が別のセッションで発表されるなど、もう少し工夫の余地があると感じられた。

1) Effects of geothermal and volcanic systems on glaciers and ice caps (口頭発表数:24)
 「火山が氷河・氷帽におよぼす影響」であり、具体的には地熱(高い地殻熱流量)に関係する事象や、氷河底部の水の作用、氷下湖、氷河下の噴火、溶岩流、ヨコロウプなどに関する研究である。特に、アイスランド最大の氷帽ヴァトゥナヨックル(Vatnajökull)の各所における氷下湖の成長とヨコロウプ発生(場所と時により、周期は5~10年または1~3年)の研究が多く報告された(T. Thorsteinsson)。同氷帽の下の火山(Grímsvötn)のカルデラは水で満ちた湖で、それを被う氷帽の氷は水に浮き、厚さ100-300mの棚氷となっている。棚氷の掘削により氷コアの解析に加え、湖の水質分析が行われ、微生物の生存も確認された。また、このカルデラから氷河底面に沿って排水路が形成され、周期的にヨコロウプを発生している。
アイスランド以外では、アラスカ、ワシントン州、南米の火山、西南極の氷流等の研究報告があった。また、南極ボストークの氷下湖も、地熱により氷が融解してできた巨大な湖なので、これに関する発表も5件あった(A. Ekaykin、他)。

2) Effects of ice cover on volcanic systems (9)
 “氷と火山の相互作用”のうち1)の逆の「氷河が火山に及ぼす影響」である。筆者は、このシンポジウムへ出席するまでは、“相互作用”と銘打っても影響を受けるのは氷河であり、氷河から火山への影響は考えたことがなかった。しかし、厚さ数100mにおよぶ氷の荷重、その結果として氷河底部にかかる圧力は、氷河下の地殻やマグマの動き、噴気に少なからぬ影響を与えている(M. Gudmundsson)。このセッションの多くは、火山の側から氷河の影響を見ているので、研究が依拠するところは火山学(地震、重力、化学、地質等)であり、筆者の理解がはるか及ばぬ点も多多あった。

3) Geophysical exploration of ice-covered volcanoes (8)
4) Information from internal acid layers and tephra layers (5)
 3)はアイスレーダ、地磁気、重力法等による、氷の下の火山の探査である。4)は、氷体内の酸性物質や火山噴出物(テフラ、tephra)の層から得られる情報であり、山岳地域の氷コア研究にとっては非常に重要な鍵となるものである。しかしながら、今回のシンポジウムでは氷コアに関する発表(G. Clarke、他)が非常に少なかったことは残念であった。

5) Volcano-glacier hazards (10)
6) Extraterrestrial ice-volcano interaction (4)
 5)は火山と氷河に起因するハザードであり、コロンビアやメキシコにおけるラハール災害、アイスランドの火山性地震とヨコロウプによる危険度や被害の報告であった。6)は、本シンポジウムでは地球以外の惑星も対象としたため設けられたセッションであり、局所的に高い地殻熱流量を与えたときの火星氷床の形態に関する数値実験結果が発表された(R. Greve)。

4.エクスカーション

 シンポジウムの中日には日帰りの、終了後には2泊3日の研修旅行が実施された。案内役は地元アイスランド大学および気象局の地質や火山学、氷河学の専門家である。レイキャビックからバスで30分ほども郊外に行くと、見るべき自然景観にこと欠かない。池、湖、滝、間欠泉、海岸、鳥、山、氷河など。この研修では、当然ながら一般の観光客はあまり立ち止まらない場所で、歩きながら詳しい解説を受けた。まず、火山噴火により生じた地形や溶岩流の原野など(写真2)。

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   写真2.枕状溶岩(pillow lava).形状や結晶構造から溶岩が水中で急激に固化したと考えられるので、当時ここは氷河の下の湖の底で、そこで水中噴火した証拠とされている.(レイキャビック市郊外)

 次いでアイスランド南部のミィダルスヨックル氷帽およびヴァトゥナヨックル氷帽から南へ流出するいくつかの氷河を訪れるとともに(写真3)、それらの氷帽(火山)からの溶岩流、火山泥流、ヨコロウプ等の痕跡や氾濫原をあちこちで見ることができた。この国特有の、このような泥流や洪水に関する基礎的や工学的研究は大変進んでいる。

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   写真3.最も活動的な火山の一つであるカトゥラ(Katla volcano)を被うミィダルスヨックル氷帽(Mýrdalsjökull)から南へ流出する氷河の末端付近.

 また、レイキャビック郊外の地熱発電所を見学したが、この国の全消費電力の約40%は地熱発電によっていること、および発電にともない生じた温水と排熱を利用し、約100℃の温水を都会へパイプ輸送し、住宅の暖房の大半をまかなっていることを聞いた。レイキャビックまでの全長23kmを、重力の作用で輸送し、その間の温度低下はわずか2℃以下とのことであり、高い技術を使い自然のエネルギーを効率的に利用していることに感銘を受けた。

  [日本雪氷学会誌「雪氷」第68巻5号、2006年9月、シンポジウム報告『氷と火山の相互作用』より転載]

 
 
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