カラコル;氷温;パタ;オーギブ;モンゴル;マッキン;アラスカ;キリマ;南極模型;南極温暖化”

スパンティーク峰(カラコルム)登山.  森田富雄(鳥取・久松山岳会)、2008/02/08 、 No.1632
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 昨(1997)年7月から8月にかけて、労山(日本勤労者山岳連盟)主催で、パキスタン・カラコルムのスパンティーク峰(7027m:写真)の登山を行った。

 日本各地の山岳会から集まったメンバー11人の内、50歳台は1名(女性)のみで、他は60-70歳台という、かなりの高齢者登山隊であった。

 7月27日からキャラバン開始、チョゴルンマ氷河上を歩き、30日ベースキャンプ(4300m)設営。その後、C1(5000m)、C2(5500m)、C3(6200m)と、高所順応しつつ荷揚げを行った。

 8月17日、第1次アタック隊は、標高6500m付近で、高所ポーターの体調不良のため、全員撤退のやむなきに至った。
 19日02:20、第2次アタック隊(日本人5名)はC3を出発した。空が白んできた頃から、3名が大きく遅れ、森田(登攀リーダー)は約6900m地点で待機、1名が09:16に登頂した。

                (構成、投稿:成瀬廉二)


スパンティーク峰登山(続) 

                森田富雄 (成瀬廉二)、2008/02/09、 No.1633

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 写真は、ベースキャンプ付近からチョゴルンマ(Chogo Lungma)氷河を下流側に見たものです(2007.7.30)。左岸からバズィン氷河が合流し、その氷河上には波状のオージャイブ模様、およびオージャイブの階段から流れ落ちる滝が見られます。滝の高さは、約10m以上か。

[成瀬、注]支流バズィン氷河の流れの方向に凸の弧状の模様がオージャイブ。滝(写真左寄り下方)のサイズから推測すると、この波状オージャイブの起伏が大きい。
 オージャイブの尾根に斜交するように、白い氷とデブリで被われた黒い氷の帯の互層が認められる。これは、表面だけの白黒か、氷河内部まで続く三次元的構造かは分からない。
 また、オージャイブの尾根に直角に、多数のクレバスが形成されている。上記の滝は、氷河の融解水が一つのクレバスに流れ込み、その川が段差の部分で流れ落ちているものと思われる。 


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氷河温度からみた地球温暖化 

              白岩孝行、2008/01/04(Fri)、 No.1624

新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

レギュラー投稿の第一回目として、氷河の内部温度が示す最近の北東アジアや北米の高所における気温変動について話題を提供したいと考えています。なお、私自身はここ数年、氷河研究からやや遠ざかっており、川と海と大気の生態学的なつながりを解明する課題に取り組んでいます。これについては、また機会がありましたら紹介しますが、もしよろしければ、以下のホームページをごらんください。政策提言までを視野に入れた文理融合型プロジェクトです。

さて、私たちのグループ(北海道大学 低温科学研究所)は1995年から2005年にかけて、カムチャツカ半島とアラスカに分布する標高4000m以上の高地に発達する氷河をフィールドに雪氷コア掘削を行うことにより、過去数百年程度の期間の気候と大気環境の変動を復元する研究を行ってきました。中心となる作業は、掘削した長さ200m程度の雪氷コア試料の物理・化学的な解析・分析を通じて過去の気温や降水量、そして黄砂や汚染物質などの大気を通じて輸送される物質の変動を調べることです。

この研究の過程では、氷河の表面から底面にわたって雪氷コアを掘削するため、その掘削孔を利用して氷河の温度を全層にわたって詳細に測定することが可能になります。一般に、氷河の最も高い場所における氷河の温度は、季節的な気温変化によって大きく温度が変動する氷河表面の15m程度の深度を除き、その下方では、大気を通じて冷やされる表層で最も温度が低く、地球内部から伝わる熱の影響で常に暖められている氷河底面付近で最も温度が高くなります。その結果、氷河内の温度プロファイルは、気候条件と地殻熱流量が一定していれば、表層で低く、下層で高い温度プロファイルを示します。

本当はもっと複雑で、氷河が流動することによってより高所から流れてくる冷たい氷や、氷河表面が融けたり凍ったりして放出される熱、そして氷河流動によって氷が歪む際に作られる熱が氷河内の温度プロファイルに影響を与えます。

標高4000m以上の氷河の最高部に掘削地点を限定したのは、これらの複雑な要因をできるだけ排除するためです。そのため、ひじょうに簡単に言ってしまえば、これらの地域では、氷河の上層のほうが下層より温度が低くなり、もしそうでないプロファイルがあった場合、それは最近の気温が上昇していることの証拠となります(この場合、季節毎に降る雪の配分が年々あまり変わらないという前提があります)。

私たちが研究対象とした氷河は以下の5個です。1.ロシア・アルタイ山脈のベルーハ山(竹内望・藤田耕史両博士からのデータ提供)、2.ロシア・カムチャツカ半島ウシュコフスキー山、3.ロシア・カムチャツカ半島イチンスキー山、4.アラスカ・ランゲル山、5.カナダ・ローガン山キングコル。

以上の氷河の温度プロファイルを検討した結果、ベルーハ山、ランゲル山、ローガン山の3つの氷河の温度プロファイルでは、氷河の上層部分において、氷河内の温度が上層ほど高い逆転したプロファイルが見つかりました。つまり、最近の十年~数十年に温度が上昇している証拠です。一方、カムチャツカ半島の二つの山の氷河では、アルタイ山脈やアラスカ・カナダの山々でみられた氷河温度の逆転現象は見られませんでした。

カムチャツカ半島では、低地の気象データには近年の温暖化の傾向が現れています。また、低地の山岳氷河は一般的な傾向としては後退しています。なぜ高所の氷河には温暖化の傾向が現れないのでしょうか。残念ながら、その原因は現段階ではわかりません。カムチャツカ半島の気候には、温暖化の長期的な影響に加え、北部北太平洋で生じている十年~数十年周期の固有の気候変動が影響を与えており、これが温暖化の影響を小さくしているのではないかと推定しています。

地球温暖化をきちんと理解するためには、できるだけ長い時系列の気候変動情報を空間的に広い範囲にわたって収集することが必須の条件です。残念ながら、高所のデータはゾンデを用いた気象観測データに限られており、これらの観測記録はけっして長い時間を網羅していません。

山岳氷河の情報を様々な角度から読み取ることによって、地球温暖化の実態をきちんと掌握できるのではないかと思っています。そのためには、温暖化によって氷河が失われる前に、氷河が蓄えている過去の記録を我々の手で確保しておくことが必要となります。

文責:白岩孝行 (総合地球環境学研究所/低温科学研究所)

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パタゴニアに行ってきました 

            青木賢人、2008/01/15(Tue)、 No.1627

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みなさま あけましておめでとうございます.
本年もよろしくお願いします.

さて,この年末年始もパタゴニア調査に行っていました.今回のターゲットはLago General Carrara / Lago Buenos Airesの周辺の地形発達史です.そのときの様子を私のブログに日記風にまとめてあります.

普段 研究者がどんな感じで現地調査をしているのか,なかなか普通の方はイメージができないかと思います.難しい言葉を使わないで書いていますので,「へ~ 研究者ってこんなことしてるんだ・・・」と思いながら読んでいただければと思います.

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パタゴニアに行ってきました-2 

            内藤望、2008/01/25(Fri)、 No.1629

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みなさん、こんばんは。広島工業大学の内藤と申します。

先週の青木さんの投稿と同じく、私も南米パタゴニアに行ってきました。
パタゴニアと言っても、その氷河地帯は北氷原と南氷原の二つに大別でき、青木さんの行かれたのは北パタゴニア氷原のチリ側で、私が行ってきたのは南パタゴニア氷原のアルゼンチン側に位置するペリート・モレノ氷河です。

昨年の12月19日に出国(青木さんのブログを見たら、なんと同じ日に同じ成田空港から同じ航空会社の便で出発していたことに驚きました。私達はロスではなくシカゴ便でしたし空港で会うこともありませんでしたが)、1月11日に帰国しました。
今回の氷河観測の内容は、(細かくいうといろいろあるのですが、)特に主要な3点を以下に記します。
[1] 氷河の表面を測量し、過去の結果と比較することで、氷河が厚くなっているか薄くなっているかを調べる。【氷河変動】
[2] (カーナビや携帯電話搭載でも有名になっている)GPSを昨年の同時期に氷河上に設置しておいたのですが、それを回収することによって、氷河がどのくらいの速さで流れているか、年間を通じて調べる。【氷河流動】
[3] この氷河では、氷河(個体の氷)の表面や内部(空洞)を大量の融解水(液体の水)が流れているのですが、氷河内部のその水位を測って氷河の流れる速さとの関係を調べる。【氷河内水位:氷河底水圧の流動への寄与】
ただし最後の[3]項については、残念ながら今回は結果的にうまくいきませんでした。もう少し検討し直して再度チャレンジしたいと思っています。

ところで「氷河の表面や内部を水が流れている」ということは、あまり一般的には知られていないかも知れませんね。世界中どの氷河でも、というわけではないのですが、氷河の温度がほぼ全域にわたって融点0℃に達しているような「温かい」氷河【温暖氷河】では、よく見られる現象です。氷河表面上には、まさに川のような水流が走っており(写真)、所々に開いた氷河内部への縦穴【moulin:ムーラン】で、その水流は滝のようになって氷河内部へと入っていきます。私は氷河内部の深いところの様子は見たことがありませんが、氷河内部には大小様々な水路が走っていると考えられているのです。

そういえば昨年度、ペリート・モレノ氷河に滞在していた際、ムーラン内に降りていってこの氷河内部の水路中をケービングするという冒険野郎達に会いました。もちろん登山用の命綱をはじめ最新の装備を使っていましたが、私にすれば「crazy」としか言いようがありませんでした。(彼らはcrazyと呼ばれることで逆に喜んでいるようでしたが...)こういう冒険野郎達が氷河内部の科学調査・観測に協力してくれるとかなり面白い成果が上がるような気がするのですがね。私自身は、ムーラン内に降りていくという行為はさすがに怖くて、やってやろうなどとは露ほどにも思いません。危険をあえて冒す「冒険」は目的ではなく、あくまで「安全と判断される」範囲内での調査・観測にとどめます。(この安全かどうかの判断が、時として難しいことがあるのですが...)


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オージャイブと電車の混雑 
 
                     澤柿、2008/02/11(Mon)、 No.1637

北大・地球環境の澤柿です.
今回二つ目の投稿は,【2/8-9 スパンティーク峰登山】の記事にあるチョゴルンマ氷河のオージャイブについてのコメントです.

オージャイブは氷河の表面に横断方向に見られる規則的な縞々模様のことですが,この縞模様は,氷河の流動速度の季節的変化によって形成されると考えられています.中緯度の山岳氷河は一般的に,夏期には速く冬期には遅く流れる傾向があります.氷河が,滝のように落ち込む急斜面(アイスフォール)を通過する際に,夏期にはアイスフォールを速く通過し,冬期にはゆっくりと通過することで,氷河全体の流れに粗密ができたり,氷河の表面に谷の側壁から供給される岩屑をキャッチする量が増減したりすることによってオージャイブが形成されます.

ちょっと抽象的で難解な説明になってしまいましたが,この現象を理解する助けとなる随筆がありますのでご紹介しましょう.それは,寺田寅彦が書いた『電車の混雑について』という随筆です(http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2449_11267.html).

『電車の混雑について』は,定期的間隔で運行されている電車を待っていると,ある時には混雑していたかと思うと,一本見送ってみるとたいへん空いていた,という生活の実体験を科学的に考察している随筆です.一見定期的にやってくる電車も,様々な理由によって微妙に遅れたり早まったりしていて,定常的に存在する乗客が電車に乗ることができる確率と頻度は粗密を繰り返す,と寅彦は説明しています.オージャイブも,電車を氷河に,乗客を岩屑に置き換えることで説明可能であるといってよいでしょう.

寺田寅彦は,『天災は忘れた頃にやってくる』という名言を残した地球物理学者で科学随筆家としても知られていますが,彼が氷河の物理学を知っていたかどうかは定かではありませんし,近年の温暖化クライシスを予知していたとも思えません.しかし,学者の立場を貫きながら科学と芸術に関する考察を重ねたりするなど,近年でいうアウトリーチを先駆的に行っていたとも評価できる偉人です.温暖化がファッショ的に叫ばれている今日,寅彦が生きていたらどんな随筆を残していただろうか,と,文学的な思惑にふけてみるのも一興かと思います.でも,今時の研究者はそいういう余裕も与えられないほど,目の前の業績・成果・社会対応に汲々とせざるを得ない現実があることも確かで,なかなか世知辛いものだとも思います.

なお,氷河の中には,季節的な変化だけでなく,数年~十数年周期で急激に高速化するものがあることも知られています(氷河サージ).私たちがカムチャツカにある氷河の表面にみられるオージャイブ状の形態を実測とモデル計算により説明した論文が昨年出版されましたので,興味の有る方はご覧下さい.


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オージャイブと電車のスピード 
  
   成瀬廉二、2008/02/15(Fri)、No.1639

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 オージャイブの縞模様の間隔は、その場所の氷河の流動速度を示しています(本HPの「氷河・雪氷圏ミニ辞典」
の”オージャイブ”参照)。
 寺田-澤柿氏にならって、オージャイブの1本の縞(例:黒い帯)を1台の電車にたとえると、この現象を説明できます。

 1年に1本の縞がアイスフォールで生産されます。これを、ラッシュアワーの都会の電車のように、3分に1台、電車が始発駅を出発するとします。

 電車がカーブにさしかかると、スピードを落とします。すると後続の電車が近づいてきて、車間距離が短くなります。追突しないのは、全ての運転手の判断基準、技量が完全に同一(均質)だからです。

 カーブが終わり直線路になると再びスピードを上げ、車間距離が長くなります。

 ダイヤが乱れていない時(定常状態と言う)は、カーブ区間でも、次の駅でも、終点でも、きちっと3分に1台、電車が通過(到着)します。

 すなわち、ある地点の車間距離(縞模様の間隔)が、その地点を3分間に走る距離、つまりスピード(流動速度)を示しています。

 図の黒丸と実線はオージャイブの縞模様の間隔(年平均速度)、+印は測量で求めた短期間の流動速度です。両者はかなり良く一致しています。(パタゴニア・ソレール氷河:Aniya & Naruse, 1987)

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モンゴルに行ってきました 
 
  矢吹裕伯、2008/02/21(Thu)、No.1644

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こんにちは海洋研究開発機構の矢吹です。
先週2月11日~15日にかけてモンゴルに行ってきました。モンゴルの首都ウランバートルに到着したのが深夜0時頃で、空港ターミナルの外に出ると、一気にむせ返るほど低温でマイナス30度を下回る気温でした。近年地球温暖化がよく話題に出ますが、今冬のモンゴルは近年と比較して寒く、また積雪も昨年より多いとのことでした。

モンゴルは永久凍土地帯の南限に位置し、地球温暖化により永久凍土が融解するなど敏感に反応する地域と考えられています。またウランバートル周辺の山では斜面の北面に森林がありかつ凍土が存在し、一方南面は草地であり凍土が存在しないという特徴的な地表面状態が存在します。

凍土の存在が森林を維持しているのか、森林の存在が凍土を維持しているのか?私たちの研究所ではこの要因となる結論を得るまでには至っていませんが、このような凍土と森林の維持機構及び地球温暖化によって凍土がどのような振る舞いをするかに関して研究を行っています。

さてモンゴルでは放牧が盛んですが、冬期に家畜が死んでしまう”ゾド”と呼ばれる被害があります。これはモンゴルの主たる産業である牧畜業の被害なので国家的な大きな問題となっています。

私は、これまで通常より多い積雪によって家畜が積雪の下の牧草を食べられることができなくなる、もしくは夏期の降水量が少なく冬期のための十分な牧草が準備できずに、牧畜が死んでしまうという単純な気象学的な問題であると理解していました。

しかし”ゾド”は「通常より多い積雪、あるいは全く雪が降らない状態、ひどい寒冷、強風といった単なる自然現象ではない。気候の厳しさから家畜を守る準備が十分でないため家畜が多量に死ぬ条件が発生し損害の出ること」と定義されているようで、過放牧等の社会学的な問題も多く含んでいる問題であるとモンゴルの方から教えていただきました。

地球温暖化によりモンゴル地域で降水量が増加するのか減少するのか不明な点は多いですが、気温の上昇は進行中です。このモンゴルのゾドという問題は地球温暖化が単純な気候学的な問題だけでなく、社会学的な問題をも含んだ問題であると再考させられました。


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マッキンリー山での気象観測-その1. 
 
                   金森晶作、2008/02/23(Sat)、 No.1646

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偶数月、4週目担当のレギュラー投稿者、金森晶作です。現在は北海道大学環境科学院の博士課程に在籍し雪氷学に関連した博士論文研究に取り組んでいます。
3月に学位を取得する見込みで、その後の就職先を探しています。

さて、今回ご紹介するのは北米大陸の最高峰、マッキンリー山の山頂近くで行われている気象観測のプロジェクトです。

International Arctic Research Center (国際北極圏研究センター;IARC)のマッキンリー観測プロジェクトのwebサイト
http://www.iarc.uaf.edu/mt_mckinley/index.php
によりますと,このプロジェクトは日本人の登山家、大蔵喜福さんをプロジェクトリーダーに,日本山岳会を中心として1990年にはじまりました。
私自身も2004年にボランティアスタッフとして参加しています。

このプロジェクトが他の多くの観測と異なっているのは大学等の研究機関に所属する研究者がはじめたプロジェクトではないという点です。
きっかけは大蔵さんの友人でヒマラヤの8000峰9座にのべ12回の登頂した登山家,山田昇さん等,3人の日本人登山家が1989年2月,冬季マッキンリー山で命を落としたことにありました。

大蔵さんは優れた登山家の友人等の遭難の原因は冬季の過酷な気象条件,特に人をも吹き飛ばすような突風にあったのではないかと信じ,そのような冬季のマッキンリーの気象条件を調べるために観測プロジェクトを立ち上げました。

また,この観測の背景には,大蔵さん自身が冬季ヒマラヤの強風に対応するため風洞実験装置内で行動できる限界を試すといった冬季の風に対する科学的なアプローチの経験があったこと,1984年2月,同じ冬季マッキンリー山で探検家の植村直己さんが遭難しており,マッキンリー山の冬季の気象条件への関心が高まっていたこともありました。

マッキンリー山での通年の無人での気象観測は困難を極めました。夏に設置した観測装置が翌年吹き飛ばされて無くなってしまうのです。
私が参加した2004年も、三杯式風速計の風を受けるお椀の部分がひしゃげ、前年に取り付けたはずのパーツの一部がなくなっていました。
観測地はマッキンリー山の南峰(6194m)と北峰(5934m)をつなぐ稜線上の岩が露出した場所,標高5715mの地点にあります。氷河の発達している山で山頂付近は夏でも氷点下の気温ですから一年中雪が降っているはずなのですが、その雪がほとんど残らないのです。

氷河での観測で一番注意しなければならないのは着雪です。一度装置に着雪がはじまると、どんどん雪だるま式にふくれていき、ついにはその重みと風で倒壊してしまうのです。そのような失敗談を先輩研究者からたくさん聞いていたので、このような雪が全部吹き飛ばされてしまうようなところでの困難さは驚きでした。
風速計などは相当な風速にも耐えられるように作られているはずですが、それがひしゃげてしまうようなんていったい何が起こっているのでしょうか。
私は一時的な着雪により観測機材が想定外の力を受ける状態になったときに突風によって飛ばされてしまうのではないかと推測していますが,実際何が起こっているのかは全くわかりません。

過去観測された最大風速は83m/sだったそうです。
(テレビ朝日報道STATION:マッキンリーの風と闘う 高所気象観測15年の記録 2005年3月7日放送
より)
気象庁の区分で最も風の強い「強烈な台風」が平均風速54.1m/s以上ですからこれは相当に強い風です。また,瞬間最大風速はもっと大きいはずです。

#写真:マッキンリー山の気象観測地にて。著者は右端。(2004年6月)

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マッキンリー山での気象観測-その2 

                 金森晶作、2008/02/23(Sat)、No.1647

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1990年から10年間の観測の後,設置された観測機材はIARCへ寄付され,プロジェクトは1999年からIARCが科学プロジェクトとして引き継ぎました。観測機材の設置回収に向かうチームは引き続き大蔵さんがリーダーを務め,日本からの登山者チームも毎年ボランティアとして参加しています。またデナリ国立公園の支援も受けています。

科学的なプロジェクトという意味では,IARCは何か特定のことを明らかにするためにこの観測を行うのではなく,今後の研究に役立てるために定常的な観測データを収集することを志向しているようです。
webサイトによりますと,具体的には下記の可能性を挙げています。
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■ジェット気流
マッキンリー山は,ちょうど北半球の大気高層を西から東へ高速で流れるジェット気流とぶつかる位置にある。マッキンリー山での観測はジェット気流の毎日の位置を知るのに役立つ。

■温度上昇イベント
冬季に,アラスカ州内陸部において突然温度が上昇することにより,Freezing rainという災害(氷点下の地上に雨が降って凍りついてしまう)をもたらすことがある。この災害は南からの暖気がマッキンリー山のあるアラスカ山脈の間を抜けてくることによって引き起こされるが,マッキンリー山での観測はこのイベントがどのように引き起こされるのかについての情報を提供する。

■山岳地の風
山岳地の突発的な風はその地形に大きく影響される。マッキンリー山での観測は山岳地特有の風のふるまいを理解するのに役立つ。

■温度モデル
多くの研究(たとえば氷河や凍土,生態系の研究)では正確な温度データが重要で,観測地点がない場所についてはモデルを計算して求められるが実際の観測値での検証が必要となる。マッキンリー山での観測は数少ない高所のモデル検証用データとなる。

■高所気象の比較
マッキンリー山は世界で二か所しかない標高18000feet (約5500m)を越える観測地である。このデータをハワイのマウナロア山,ボリビアのイリミアニ山,日本の富士山,ネパールのサガルマタ(エベレスト山)のデータと比較することによって,場所の異なる高所の類似性と違いについて有用な情報が得られる。

■高所の定常観測
高所の観測地点は数少ない。マッキンリー山の観測は高所観測情報の空間的な粗さを埋めるのに役立つ。

■気球による気象観測との比較
気温のコンピュータモデルは気球観測のデータも利用する。気球観測による任意の高度の気温は地球の表面気温と異なることが多い。マッキンリー山の観測により,マッキンリー山のデータとアラスカ各地で日に二回行われる気球観測の結果とを比較検討することが出来る。
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現在は上記の研究のために風向,風速,気圧,温度を計測し,常時研究所にデータを送ることのできるシステムの構築を目指しているようですが,一年間を通して観測システムを維持することは出来ていません。

毎年,夏に機器を更新した後はリアルタイムのデータをwebでみられるのですが,昨年の場合は12月4日で止まってしまっています。

このマッキンリー山での観測から短い間に具体的な研究成果を挙げるのは難しいかも知れません。しかしながら,このようなユニークな場所での観測は,データが集積されたときに大きな意味を持ってくるはずです。

もう一つ,このプロジェクトには大きな側面があります。それは多くの登山者,特に次世代を担う若者にマッキンリー山へ行く機会を提供してきたことです。

マッキンリー山のもっとも一般的なウエストバットレスルートは技術的にはあまり難しくありません。例えば2006年にはこのルートには5月から7月を主とする登山シーズンに1053人程度の人が入山し,545人もの人が登頂に成功しています。

このルートで特に困難なのは高所への順応と天候の判断の点で,大蔵さんのような経験ある優れたリーダーが指揮すればかなりの確率で登頂出来ます。

有名な方では七大陸の最高峰をすべて登頂した石川直樹さんが1998年に大蔵さんの気象観測チームに参加して登頂しています。また,石川さんよりも前に七大陸の最高峰への登頂を達成された野口健さんは,マッキンリー山へは1993年に単独で登頂しましたが,一緒に入山した大蔵さんに多くの支援を受けました。

このプロジェクトは科学的な成果という面でも,人材育成という面でも,すぐには具体的な形にはならないかも知れません。そのようなプロジェクトを研究者サイドの人間がはじめたり維持するのは困難で,大蔵さんという登山家が情熱を注ぎ込んでいるが故に成り立っています。
私はこのプロジェクトが,例えばIARCのPRに役立つというような視点から継続され,大蔵さんの情熱が科学的な成果としても大きく実を結ぶことを願っています。

IARCでは観測データをリアルタイムで発信する他に,毎年のマッキンリー山への機器設置回収の様子を写真やブログで紹介しています。ぜひそちらもご覧ください。

#写真はフォーレイカー山とカヒルトナ氷河(2004年6月)


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今夏のアラスカでのアイスコア掘削.. 

                白岩孝行、2008/03/01(Sat)、No.1653

あっという間に一巡してきました。明日からロシアに出かけるもんで、ちょっと簡単ですが、今夏の計画の宣伝です。

2002-2003年のローガン山(カナダ)、2003-2004年のランゲル山(アラスカ)と、過去数百年程度の高時間気候変動の復元を目指して、おおよそ200m程度のアイスコア掘削を行ってきましたが、今回、ようやく最後のアイスコアの候補地が決定し、5月~6月にかけてアラスカ山脈のヘイズ山でアイスコア掘削を行うことになりました。過去のデータがないので、4月中旬に飛行機をチャーターして空撮をしてくる予定です。

標高は4000m前後でこれまでと大差ないのですが、今回はちょっと厄介な地形のため、メンバーを少し絞って、掘削を私が担当し、コア解析を的場澄人さん(北大低温研)、氷河動力学を杉山慎さん(北大低温研)にお願いする予定です。その他、選び抜いた学生さんを少々。

このアイスコアが採取できると何がわかるかという点が最大の問題ですが、ローガン、ランゲル、ヘイズの3本を使って、アジア大陸から北部北太平洋を通って北米に輸送された黄砂の年々(できれば季節)変動を高時間分解で過去500年くらいまで遡って復元したいと思っています。これがわかれば、北太平洋の気候・海洋・生態系レジームシフトに対し、大気の寄与がある程度推測できると思ってます。

白岩孝行(総合地球環境学研究所)

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キリマンジャロの氷河 

                  成瀬廉二 、2008/04/03(Thu)、No.1660

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 昨(2日)夜、民放のテレビで地球環境に関する特集番組があった。新聞の案内をみて、興味深いトピックスはいくつかあったのだが、全部で4時間弱という‘異常に’長いドキュメンタリーで、とても付きあっていられない、と思っていた。

 しかし、ちょっとだけ、とチャンネルを回したところ、ちょうど「キリマンジャロの氷河」が始まるところだった。

 地球温暖化と氷河のイントロの後、カムチャツカの氷コアを前に当NPO会員の白岩氏がほんの一言喋り、パタゴニア・ペリートモレノ氷河のカービング(末端の氷の崩壊)が映り、南極ドーム基地と深層氷コアの簡単な説明があり(極地研と東北大)、キリマンジャロへ戻ってきた。

 キリマンジャロ山頂(標高5895m)の氷河の近年の衰退傾向は温暖化の‘象徴’としてしばしば取りあげられている(「情報の広場」 No.1578,1579,1584,1602参照)。

 このTVでは、取材陣による最近の氷河の映像に、インスブルック大学のカサー(Georg Kaser)教授の「(氷河の衰退は)温暖化が第一の原因ではない」というコメントが加えられていた。

 この氷河のテーマに関してのみ言えば、ウソはなく、概ね的確にまとめられていると思ったが、広範な事象をつまみ食い的に展開されたので、一般の視聴者に何を訴えることができたのか、やや疑問に感じざるを得なかった。

 写真:モシ(タンザニア)から見るキリマンジャロ山(杉山慎、撮影)。

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        南極の模型 

                    澤柿教伸、2008/06/08(Sun)、No.1680

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北海道大学の開学記念日にあわせて6月5-8日の間,北大祭が開催されています.私の所属する環境科学院でも施設公開を実施して,研究などを紹介しています.その企画のひとつに「国際南極大学プロジェクト」の出展があり,北大関係者の南極観測での活躍の様子や,国際南極大学のカリキュラムを紹介しています.

国際南極大学からの展示品の目玉の一つが南極の模型です.よく見ていただくと,白と青に塗られた部分の上に凹凸のついた透明なカバーがかかっていて,二重構造になっているのがわかると思います.青く塗られたとおろは海洋,白く塗られたところは氷や雪に覆われた範囲を表していますが,この透明な部分は氷床の表面地形を表していて,白い部分との間にできている空間が氷床の厚さを表現しています.普段は低温科学研究所に展示されていますので,札幌にお越しの折にご覧になってください.

このように実際に触れることができる模型も見ていて飽きませんが,最近ではGoogle Earthというのができて,パソコンの画面上でバーチャルな地球をみることもできるようになりました.素のGoogleEarthだけでも充分に楽しめますが,これにkmlと呼ばれる特別な情報を持ったファイルを付け加えると,もっと楽しく使えるようになります.

南極関係の情報をGoogleEarthに付加するkmlファイルもいろんなものがあります.ネットで検索すればたくさん見つかると思いますが,以下に代表的なものを紹介しましょう.


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南極は温暖化? 寒冷化? 

                       成瀬廉二、2008/07/06(Sun)、No.1687

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 洞爺湖サミットを直前にして、報道その他にて温暖化の論議が熱を帯びている。

 過去100年間、地球上の気温が平均としては上昇していることに疑う余地はない。しかし、南極では、「各国が気象観測を開始してからの約半世紀は、温暖化は認められない」ということを、私はいままで、昭和基地のデータを例に示したりしながら話をしている。

 ところが、例えば1か月ほど前の朝日新聞には「地球異変=南極変色=」の中で、南極半島の雪が藻類の繁殖により「赤雪」となっていることを紹介した上で、ここでは温暖化が顕著で、ベルナツキー基地の年平均気温が過去50年間に2.8℃上昇した、と報道した。

 代表的な都市気候を示す東京の年平均気温の上昇量が過去100年間で約3℃なので、同基地の気温上昇は著しく大きい。新聞、テレビのインパクトは大きいので、この“温暖化”が局所的なものか、標準的なものか、信頼できるデータに当たっておく必要を感じた。

 イギリス南極研究所(BAS)のD.Vaughanの解説に、南極半島の過去50年間の年平均気温の総上昇量は2.8℃、との記述があった。偶然ながら、ベルナツキー基地の値と同一である。

 一方、南極全体では、Chapman & Walsh(イリノイ大学)の解析によると、1958-2002の45年間の年平均気温の上昇は0.371℃である。これを、単純に100年に延長すると、+0.82℃となり、IPCC報告(2008)による過去100年の全地球平均気温上昇0.74℃に偶然近い値である。

 しかし、この南極の平均温度の上昇は南極半島の影響(図の赤い部分)であり、他の地域は温度不変か寒冷傾向(図の緑部分)にある。なお、Chapman & Walshも指摘しているが、南極では1960年前後は比較的低温だったので、その頃からのデータを解析すると南極平均でわずかに温暖化となるが、1970年頃からのデータを用いると寒冷化となる。

図:1958年から2002年までの年平均気温の直線近似による変化。暖色が温暖化、寒色が寒冷化を示す。(Chapman & Walsh、2007: World Climate Reportより.)



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